Ep.184
牛肉ばかり有名なこの街を「古都」と言って伝わる人がどれくらいいるだろう。
松阪市のことである。
県庁所在地・津ほど発展していない。人は少ない。されど津と同様に品格高く、駅前から歩くと往時の面影を感じさせる。
一般的なイメージとしての京都に最も近い三重県の街が松阪である。
事実、毎年夏には「松阪祇園まつり」というものがある。京都の祭りが波及したものと言われる。
近鉄“山田線”といってもまったくピンとこない。(これはおそらく地元の人にとっても)
三重県を走る近鉄列車は、名古屋から南下して津の少し先の伊勢中川駅(松阪市)までが「近鉄名古屋線」。そこから西に向かう「近鉄大阪線」と、さらに南下して伊勢志摩方面に向かう「近鉄山田線」に分かれる。(山田とは伊勢神宮内宮最寄りの宇治山田駅から)
ただこの3つはいずれもこの地域の主要路線だし、互いに直通しているから「近鉄鈴鹿線」(Ep.166参照)や「近鉄湯の山線」(Ep.181参照)のように○○線と呼称して区別することは基本的になく、単に近鉄と呼ばれている。
名古屋発で奈良・大阪方面に向かう近鉄特急は伊勢中川に近付くと極端に減速する。ただし伊勢中川駅には停車するわけではない。
実は駅を経由せずに近鉄名古屋線↔︎近鉄大阪線の線路の乗り入れが行われるパスがあるのだ。
Google Mapを見ても分かるように、両線路を、しかも川をまたいで湾曲で繋いでいる線路がそれである。
ここではスピードを出すことが制限されているようだ。
例えばもしあなたが名古屋↔︎大阪を「特急ひのとり」(Ep.104参照)に乗っていて、駅でも赤信号でもないのに極端に減速して徐行が始まったら、それはこの場所に来た証である。
松阪駅が近付くとJR紀伊本線とも合流する。(あとJR名松線も)
名古屋を出た後、近鉄(名古屋線・山田線)とJR(関西本線・紀勢本線)というのはくっついたり離れたりしている(Ep.7参照)。
桑名、津、に次いで松阪でも両者は合流して同じ駅である。
<松坂城跡>
松阪駅を出てまずは松坂城跡(松阪公園)へ。1588年に蒲生氏郷(がもううじさと)によって築城された。
ところで小説『檸檬』で有名な梶井基次郎(1901-1932)は、松阪に縁がある。
彼の短編『城のある町にて』は、幼い妹の病死という悲しみから立ち直るため、一夏の間、姉夫婦の住む松阪に滞在したという梶井の実体験がもとになっている。
城跡から眼下に広がる町並み、昆虫をはじめとする自然の描写は鳥肌が立つほど精緻で、当時の松阪はこんな感じだったんだな〜、と情景が浮かぶ。
<三井家発祥地>
信長が創った安土城下の繁栄(楽市楽座)を知っていた蒲生氏郷は、松阪城下にも豪商を招いた。これにより松阪は元々お伊勢参りの旅人で賑わっていた宿場町としてだけでなく、商業の町としても発展。
三井高利の生家跡地は「三井家発祥地」として城の近くにある。
(それだけに三井住友銀行の窓口・ATMが松阪市内どころか三重県に一つもないのは残念なところだ)
<松阪もめん手織りセンター>
商人たちとも関連する松阪木綿(Ep.60参照)は江戸でブームを起こした。
松阪木綿センターは現代にその技術や歴史を伝えるとともに、関連商品で溢れる。
<継松寺>
厄除けで著名な継松寺(けいしょうじ)。3月の初午(はつうま)大祭は「松阪三大まつり」(他二つは7月の「松阪祇園まつり」、11月の「氏郷祭り」)の一つにして県内の仏教寺院のお祭りとしては最大の賑わいを見せるそうだ。
ここで販売される郷土玩具の「松阪の猿はじき」は三重県指定の伝統工芸品でもある。
桑名の多度大社(Ep.169参照)にも「多度の弾き猿」があるが、これと同種である。
この他にも松浦武四郎(Ep.131参照)と並ぶ郷土の偉人である、本居宣長(もとおりのりなが)を顕彰する「本居宣長記念館」、松阪牛を提供する老舗レストラン『和田金』と『牛銀』も近くにある。
駅から少し歩くだけで歴史と風情を感じられる松阪は、品格高き“古都”であった。
----------------------------------------
Kintetsu-Yamada Railway and an “ancient city” Matsusaka
Ep.184
Matsusaka is an ancient city like Kyoto.
Riding on the Kintetsu-Yamada Railway and getting off Matsusaka station. We can go around lots of historical sites, the Ruins of Matsusaka Castle, the Birthplace of Mitsui Family (Japanese conglomerates), the Matsusaka-momen (Matsusaka cotton fabric) Center, Keisho-ji temple and so on.
Matsusaka is an also “high dignity” city.