Ep.195
「全時代、全世界、全カテゴリーを通じて最も好きなラグビー選手は?」
と問われたら、マア・ノヌー Ma’a Nonuと答える。
私はノヌーが大好きなのだ。
ニュージーランド代表オールブラックス通算103キャップ。03年、11年、15年W杯出場。11年、15年は優勝に貢献。
CTB(主にインサイドセンター。12番)として、強くて重い凄まじい突進を繰り返し、誰も彼を止められなかった。
スピードとキレのあるラン、グラバーキックも巧かった。
ラグビー史上最強・最高のCTBであることは間違いない。
特に15年W杯は、世界最高の輝きをこれでもかというほどに放ち続け、永遠に語り継がれる活躍だったと言える。
ボールを持って相手にクラッシュし、捕まりそうになる次の瞬間、スピンして(身体を素早く1回転させて)相手をすり抜け、さらに前進する、というあのテクニックは鮮烈だった。
プレーの特徴よりもまず、あのヴィジュアルが好きだ。
182cm、110kg。
上背はないが横に広い、典型的なサモアン体型(両親の出身はサモア)。
激しいプレーのたびになびくドレッドヘア。
そんなノヌーの相棒を長らく務めたのがコンラッド・スミスだった。
オールブラックスでも、所属先のハリケーンズでも。いつもノヌーの隣のアウトサイドセンター(13番)にはコンラッド・スミスがいた。
ノヌーがいた時代のオールブラックスは全盛期だった。W杯連覇にザ・ラグビーチャンピオンシップも常に制覇。テストマッチでは異常な勝率の高さを誇った。
ライバルであるスプリングボクスもワラビーズもよせつけない、完全無欠の強さだった。
ノヌーとコンラッド・スミスのCTBコンビが、チームを常勝に導いていたのだ。
ノヌーの相棒として彼が重宝された理由は、第一にCTBとして万能的で秀でた能力があったから、ということに間違いはないが、特にディフェンス面での貢献が大きかったと思っている。
非常に大雑把な表現であるのを承知で言うと、
ノヌーが攻撃力100、守備力50の選手であるならば、
コンラッド・スミスは攻撃力50、守備力100の選手だった。
(ここでは彼らの実力・能力という意味ではなくチームで与えられた役割として。50や100という数字の"妥当性"はともかくとして、ここで言いたいのはボールキャリアーとして期待される攻撃的なCTBと、タックルの強さを含むトータルなバランスに秀でたCTBという意味である)
15人制ラグビーにおいてCTBは2人しかいない。なので必然、バランスや相性が考慮されるはずだ。
このような例というのは他にもあって、例えば19年W杯日本代表のCTBコンビも、
ラファエレ・ティモシー(13番);攻撃力100、守備力50、
中村亮土(12番);攻撃力50、守備力100
という理解を私はしている。
ただ上記の考えでいくならば、必然、考えてしまうことがある。すなわち、
攻撃力100と攻撃力100のCTB同士でコンビを組ませることはあり得るのか?
というものだ。
私は記憶を過去に走らせた。
<懐かしの破壊的CTBコンビ:アルフレッド・ウルイナヤウ&アラマ・イエレミア>
時は2000年代初頭の日本ラグビートップリーグ。サントリーサンゴリアスはその凄まじいアタッキングラグビーで我が世の春を極めていた(Ep.189参照)。
当時の彼らのCTBというのは、13番にアルフレッド・ウルイナヤウ(フィジー代表)、12番に日本人選手、というコンビだった。
そして基本的に後半途中にウルイナヤウに替わってアラマ・イエレミア(オールブラックス)が出てくるというのがお決まりだった。
ウルイナヤウとイエレミアの攻撃力、突進力、ボールキャリアーとしての能力というのはずば抜けていて、誰も止められていなかった。
ラグビーを始めてまもない(観始めてまもない)初心者の私でも、それは「わかりやすい」ものだった。
当時サントリーのファンだった私はいつも2人のプレーを楽しみにしていた。
だがその一方で、
「なぜこの2人は同時出場しないのか?」
とも常に思っていた。
それは先述の通りCTB同士のバランスかもしれないし、あるいは単に外国籍選手枠という制度の問題かもしれなかった。
そんな当時、多分2001-2002年か2002-2003年シーズンだったと思うが、何かの試合で、後半、イエレミアがなんと日本人選手に代わって出てきて、ウルイナヤウとの破壊的CTBコンビが実現したのだ! (これが何の試合だったか..今調べても分からなかった..)
「嘘だろ…」
私は絶句していた。
攻撃力に関しては最強×最強。
これまでウルイナヤウとイエレミアのコンビ結成を幾度も夢想し続け、それでも実現されず。それが今、目の前で現実に。。
私はドラゴンボールで孫悟空とベジータがポタラで融合してベジットになったときと同じ衝撃を受けていた。
「こんなことあり得んのかよ…」
と。
本当になぜ、この試合に限ってウルイナヤウ×イエレミアが実現したかわからない。
もしかしたらこれは土田雅人監督のファンへのプレゼントだったのか。最強×最強コンビをお見せしよう、との。
当時のサントリーのチーム力はずば抜けていた。
サントリーのチーム力が「10」なら相手チームは「5」だった。勝利するのなんて容易である。
だからわざわざ“本気”を出して「15」になる必要なんてなかったのだ。ウルイナヤウ×イエレミアをする必要なんてなかったのだ。
魔人ブウだって言ってたじゃないか。
「なぜオレ(=アルティメット悟飯)を吸収しなかったんだ?」
と悟飯に問われて、
「何も分かっていないようだな。敵もいないのに最強になってどうするんだ?」
と。
まったくその通りである。
当時のサントリーもそうだったんだと私は思うことにした。
<史上最強の破壊的CTBコンビ:マア・ノヌー&ソニー・ビル・ウィリアムズ>
ではノヌーの場合はどうか?
この史上最強のCTBと「史上最強の破壊的CTBコンビ」を組める攻撃力100の選手はいるのか?
それがいたのである。
ソニー・ビル・ウィリアムズである。
194cm、110kgの堂々たる体躯。
今では誰もがおこなう「オフロードパス」も、当時はソニー・ビルの代名詞だった。
驚異的な体格と身体の強さを持ち、“タックルで倒される”ということがまずない選手だったので、相手ディフェンス複数人を引きつけて人数的な”余り”を独力で作り出してから味方にパスを放る、というプレーができたのだ。
マオリの血を引く精悍でセクシーなルックス。
現役オールブラックスであると同時にプロボクサーでもあり、WBAインターナショナルヘビー級王座を獲得。オールブラックス初のムスリム。
話題には事欠かなかった”Superb Athlete”かつ”Pop Star”のソニー・ビルである。
特に15年W杯の決勝トーナメントでは、後半途中からコンラッド・スミスに交代してソニー・ビルが入ってくるというのがパターンだった。
もちろん私はノヌー×ソニー・ビルが実現するたびに興奮して見ていた。ウルイナヤウ×イエレミアを思い出したことは言うまでもない。
同決勝のワラビーズ戦。2人のプレーは最高到達点に達する。
ボールを持ったソニー・ビルが敵陣に突進し、DF3人に捕まりながらも倒されず、悠々と身体を反転して後ろを向くと、ジャストのタイミングで走り込んできたノヌーにパス。
パスを受けたノヌーはキレのあるステップと完璧なランニングコースで敵陣をするすると抜け、駆ける。追いすがる相手をハンドオフでいなし、ゴールまで走りきり、トライを奪いきった。
このときのノヌーの姿。なんて神々しいのだろう。
私はこのシーンを何度も何度も繰り返し見返してはため息をついたものだった。
W杯史上最高のトライの一つである。
W杯連覇の立役者となった。ノヌーとソニー・ビルのCTBコンビ。
試合後、ワールドラグビー(競技連盟)はtwitterで2人を
“The World’s Most Destructive Combi 世界で最も破壊的なコンビ”
と称した。
攻撃力100と攻撃力100のCTBコンビ。
その最終到達点こそ、ノヌー×ソニー・ビルである。
そんなマア・ノヌーは実は、日本のトップリーグに在籍していたことがある。
そのチームこそ、リコーである。現在のリコーブラックラムズ東京である。
在籍していたのは11-12シーズンの1シーズンのみ。
が、全然活躍した印象がない。どのようなプレーをしたのか、その試合映像すら私は見たことがない。
ただ、今調べてみると12試合に出場して6トライを奪ったとのことだから、やはり格の違いを見せつけてチームに貢献していたようだ。
だから私にとってリコーとは「ノヌーがかつて在籍していたチーム」というのが第一の印象である。
あらためて「リコーブラックラムズ東京」
黒というのはこのチームの伝統的なユニフォームカラーである。オールブラックスのように黒衣の集団だ。
ではなぜ「Ram 羊」にしてしまったのだろうか?
“黒い羊”というチーム名がヘンだとは思わないのか?
ホームページによると「勇猛果敢なファイティングスピリットを持つ雄羊(ラム)」から付けたのだという。
虎、ライオン、龍、鷲、鷹、巨人。
「強そうな生物」というのはおおかたプロ野球のチームにとられてしまったからもう羊くらいしか残ってないのかな〜と考えた。
リコーはこの20年の日本ラグビー界のトップカテゴリーにおいて、中堅から下位に位置するチームである。
今シーズンはここまで1勝7敗。
そんな彼らが3/10(日)、鈴鹿に乗り込んできた。
リーグワン・Division1 第9節、
三重ホンダヒートvsリコーブラックラムズ東京。
ヒートは2ヶ月ぶりの鈴鹿開催。この間も初勝利はならず、8戦全敗(最下位)でこの日を迎える。
今シーズンからDivision1に昇格した彼らにとって、他のチームはすべて強豪であり格上。勝利するのは容易ではない。
ただその中でも、もし勝利できるとするならば、可能性が高いのは、
3/10(日) vs リコーコーブラックラムズ東京
3/17(日) vs 花園近鉄ライナーズ
3/24(日) vs 三菱重工相模原ダイナボアーズ
の3試合であることは、ここ数年の日本のラグビーシーンをウォッチングしている人なら容易に想像がつく(奇遇にも3週連続だ)。
だから今試合、「ヒートの今シーズン初勝利」のための、最大のチャンスがやってきたのだ。
この試合でも本田技研の臨時駐車場に直行。今回はどら焼きともなかが配られた。
スタジアムに向かって歩いていると、カイポウリ選手がチーム関係者と談笑していた。
笑顔で彼に手を振ると、笑顔で応じてくれた。
LO/No.8として本来はFWの中心選手であるカイポウリ選手は今シーズン、怪我のためだろう、開幕から登録外で数試合出場したと思ったらまた登録外。
この試合も出場しないようだ。
キックオフ。
前半5分、いきなりブラックラムズがトライを奪う。
ヒートにとってはイヤなスタートだ。またかよ…と失望する私。
ヒートの鈴鹿主催試合では、必ず立ち上がり10分以内に失トライしてしまう。
しばらく攻防が繰り広げられた後の30分にも、追加トライはブラックラムズ。
34分、ヒートがようやくトライを挙げる。
相手ゴールに一気に迫り疾風怒涛のアタック。ゴール前で観ていた私にとって、自分の真正面に向かってくる、FW・BK渾然一体となったその姿は大迫力だ。
相手ディフェンスの態勢が整わないうちに攻めて攻めてペナルティをもらうもアドバンテージで休むことなくさらに攻めて攻めて最後はその優位を保ったままトライを奪いきった!
これはヒートに限ったことではないけれど、ラグビーという競技の“見せ場”だなと思う。
しかしいただけないのはその後すぐ、37分にまたトライを奪われたことだ。
さらに悪いことにアディショナルタイムの41分にも奪われる。前半終了間際。これは本当に余計であり、痛い失点だった。
この試合、本来はWTBでトライゲッターであるデビタ・リー選手がCTBに入っていた。
私は以外に感じていたが、すぐにその効果を理解することになった。
CTBとして、リー選手のスピード、俊敏性が随所にいきる。
身体を小刻みに揺らしながらのステップとラン。相手タックラーの的を絞らせない。
その姿はWTB松島幸太朗(東京サントリーサンゴリアス。Ep.189参照)を想起させた。(ヘアースタイルも似ている!?)
俊足の選手がCTBを担う。これはどういう効果が期待されるのだろうか?
当該選手のスピードが“違い”を生み出し、ライン全体のスピードが上がる。アクセントになる。
本職のCTBの選手たちと比べてフィジカルでは劣るも、それを上回る効果が期待できる可能性がある。
私はかつて、大畑大介が日本代表でCTBを務めたことを思い出した(Ep.30参照)。松島もまた、昔エディ・ジョーンズHCにアウトサイドCTBとしての適性を見出されていたっけ。
この試合のデビタ・リー選手はいくつかいただけないミスも散見された。
だが彼のCTBとしての起用は、功を奏していたと私は思う。
後半が始まった。
しばらくスコアが動かない。両チーム、センターライン付近でボールを獲ったり獲られたりの攻防。互角である。
24分、SOミッチェル・ハント選手が入ってきた。
私は今シーズンのヒートの主宰試合を全て観てきたが、ハント選手のこれまでのパフォーマンスに失望していた。
ヒートの得点力が低い要因、それはSOである同選手にあると言えた。キックが上手なわけではない。ゲームメイクも。脚が速いわけでもない。
今シーズンから加入した同選手について、U20ニュージーランド代表歴やハイランダーズでSHアーロン・スミス(オールブラックス通算キャップ、現トヨタヴェルブリッツ)とコンビを組んでいたと言っても
「嘘でしょ? この程度の実力で?!」
と思っていた。
開幕当初こそスタメンで出ていた同選手だが、最近は呉洸太(オ・グァンテ)選手にその座を譲っていた。
キアラン・クローリーHCのその決定は正しいように見える。呉選手の方が目を見張るプレーを続けていたからだ。
だがこの試合のハント選手のパフォーマンスは素晴らしかった。
背番号10の呉選手との交代ではないもののSOに入ったハント選手。
SHからパスを受けて素早く横(CTB)にさばく。そのモーションの速さよ! ラインのスピードも上がる。リターンをもらって自らランする姿もあった。
明確な戦術やベンチからの指示があるのは間違いない。
ただリードされた状況で途中交代で出てくる選手はチームの流れを変える必要がある。
この日のハント選手はその任務を遂行した。ただそれだけでなく、彼の躍動する姿が仲間に希望をも与えた。
ヒートは後半34分に追撃のトライ!
14-24とするも、ここまで。試合終了。後半の得点が遅すぎたのが痛かった。
これで開幕9連敗。未勝利が続く。
試合後、登録メンバー外だった選手たちによる恒例の観客お見送り花道ではFL古田凌主将の姿も。
ケガなのだろう。前節から出場していない。
「古田選手、がんばってください」
と声をかけたら、笑顔で
「ありがとうございます」
と応えてくれた。
古田選手も先述のカイポウリ選手も、一ファンの私に笑顔で応じてくれる彼らの良き人柄を感じとれるが、本当はフィールドの上でのきみたちの笑顔が見たいのだけどなぁ、と思う。
勝利の果ての心からの笑顔を。
「フィジカル」という要因ゆえにすぐにはどうこうできないFWと違い、BKならすぐに手を打てる。
先述のハント選手、リー選手以外にも、アーリーエントリーで現役天理大4年生のSH北條拓郎選手やルーキーで鮮烈な光を放っているWTB植村陽彦選手(Ep.192参照)をスタメン起用したり。
結果が出ていないから当然と言えばそれまでだ。ただヒートは発展途上のチームなのだ。
試行錯誤の果てに、最適なカタチが見つかり、それが勝利に結びつくことを願う。
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Rugby Mie Honda HEAT vs Ricoh BlackRams Tokyo
Ep.195
Match Week 9 of Japan Rugby League ONE in 23-24 season, Mie Honda HEAT fought against Ricoh BlackRams Tokyo, which has used to be a member of “All time Best CTB”, Ma’a Nonu.
HEAT challenged their first victory in this season, but BlackRams got score with 4 tries in the 1st half.
In the 2nd half, it was equal contest each other, after that though HEAT got back 1 try, 14-24 lost consequently.
Thus, they had no win and 9 straight losses..