Ep.219
その壮年期の作品の一つに『櫻守』(さくらもり。1969年)がある。
桜を守り、育てることに情熱を燃やしたある庭師を主人公に、
「滅びゆく自然への深い哀惜の念とともに、なつかしく美しい言葉で綴り上げた感動の名作」(新潮社HPより)
である。
作中、以下のような一節がある。
「 伊勢の白子へ廻って、鬼子母さんの不断桜見てきたんやけど、不断桜は、美濃にもあったが、白子のは花が大きかったわ。不思議なもんや。夏も秋も、冬も咲きよる。わしらの行った日イは、天気がよかったで、一本だけ枝さきに、五つほど咲いとった。きれいな五弁の花やった・・・・・・うす桃色の花びらやった 」
「 四月の十日頃から一週間ほどの短い期間を咲くだけで、すぐ風で散ってしもうて、あと一年は、くすんだ陽かげで、葉をしげらせて春を待っとるのがあるかと思うと、白子のように、年じゅう、お詣りにくる人の眼を楽しませてくれるのもある。不思議な木イや 」
”一年中花が咲き誇る”という世にも奇妙な桜。
いかにもフィクションだな、と思うかもしれないが、これは実在する。
鈴鹿市白子(しろこ)の子安観音寺にある「不断桜(ふだんざくら)」である。
白子は伊勢型紙(Ep.26参照)発祥の地。また郷土の偉人、大黒屋光太夫(Ep.43参照)の出身地でもある。
この地に構える子安観音寺はその名の通り安産祈願を行っているお寺で、この地域では最も高名である。
正門をくぐり、本堂に向かって進みながら左手を見ると…
あった。不断桜だ。
特別大きな木ではない。だが何となく神秘性を感じる。気がする…
樹齢1200年以上とされる老木だが、青々しく生い茂る葉のその様は、生命力がみなぎる感じを受ける。
訪れたのは6月中旬。
近づいてまじまじと全体を観察したが、どこにも花は咲いていなかった。
案内板を読むと、
「 四季を通じて葉が絶えず、開花期も春秋冬に及ぶのが特長 」
とある。どうやら夏に花は咲かないようだ。
暑すぎてさすがの不断桜も花を咲かせるほどのエネルギーを有していないのだろうか?
あらためて不断桜とは、
天平宝字(757~765年)に、雷火のために消失した伽藍の跡に芽生えたとのこと。
以降、和歌や紀行文に登場する有名な桜となり、大正12年(1923年)には「白子不断ザクラ」として国の天然記念物に指定された。
なぜ夏以外の四季を通じて花が咲くのか? 研究はされたようだが明確には分かっていないようだ。
その仮説について最も詳しく書かれていたのがWikipediaで、これによると「落葉の時期」(ただし先述の通りすべての葉が散るわけではない)がポイントで、これが開花の時期と相関しているとのことだ。
私はあいにく花にはお目にかかれなかったが、葉にも伝説が伝わる。
不断桜の葉は虫に喰われてところどころ”穴”があいているが、これから着想を得てなんと伊勢型紙が生まれたのだという。
前述の『櫻守』にも、
「 不断桜の虫喰い葉から白子の型紙がうまれた。桜も花ばっかりやない。虫喰いの葉の模様が、伊勢の型紙の出来るもとになったと.....これも桜の力やなア 」
とある。
子安観音寺の安産祈願の御守りの中には不断桜の葉が1枚入っており、これが表面なら女の子、裏面なら男の子という言い伝えがあるらしい。
また鈴鹿市の老舗菓子屋「大徳屋長久」(1716年創業!?)の銘菓「小原木(おはらぎ)」は不断桜をモチーフにしたものだ。
夏以外の四季を通じて花が咲き続けるという樹齢1200年の生きる伝説「不断桜」。
それは人々を魅了し、着想を与え続け、時代を超えていくのだろう。
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Fudan-Zakura (The Untiring Cherry Blossom Tree) in Koyasu-kannouji
Ep.219
Fudan-Zakura (means “The Untiring Cherry Blossom Tree” 不断桜) is a mysterious cherry blossom tree in Koyasu-kannon in Suzuka. This approximately 1,200 years old tree blooms all year around except summer season!
Therefore, from a long time ago, let lots of people at that time inspire, in the form of waka poem, literature and also confectionery.
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E5%AD%90%E4%B8%8D%E6%96%AD%E3%82%B6%E3%82%AF%E3%83%A9