みんなの笑顔が三重(みえ)てくる Jima-t’s diary

「地域性」に光をあて、「違い」を学び、リスペクトし、楽しむというスタンスで四日市や三重の魅力を伝えていきます

全日本大学駅伝 2023

Ep.180

日市の「」は区の「」。

全日本大学駅伝の話である。(Ep.121474127参照)

 

沿道観戦は私にとって恒例行事。今年は11/5(日)に行われた第55回大会。

日本陸連 HPより

 

今大会のレース前、駒澤大学の優勝確率は98%(私見)であった。

昨シーズン「大学駅伝3冠」を達成し、エース・田澤廉が卒業したものの今シーズンはむしろ、戦力は増したのではないかと思われる。

10月の出雲駅伝は完勝。この全日本は4連覇を目指して伊勢路に乗り込んできた。

 

出雲駅伝を制した駒澤大学 The Sporting News より

 

私は今年も4区序盤で観戦するため、JR四日市駅近くに9時10分には到着。

 

 

まだ観戦待機者はまばら

 

レースは8時5分に名古屋・熱田神宮をスタートしていた。

1区序盤、青山学院大の若林宏樹が飛び出す(こういうところはさすが青学だ)。

しかし終盤にかけて徐々に差が詰まり、ラストは駒澤大・赤津勇進、早稲田大・間瀬田純平の競り合いとなり、赤津が制す。

 

優勝を狙う他大学にとっては駒澤より前でレースを進める必要があったものの、それすら阻止した。正直に言うと赤津の区間賞には脱帽だった。

 

赤津勇進選手 月刊陸上競技 より

 

2区、駒澤は佐藤圭汰。5000mのアジア大会日本代表(6位)にして学生最強ランナーの一人。

佐藤の存在ははっきり言って別格であり、そもそも駒澤は仮に1区で出遅れても2区佐藤で逆転してタスキ渡しの時点では先頭にいることができるという確かな計算が成り立っていた。

 

トップでタスキを受けた佐藤は入りの1kmを2分37秒(!?)という驚愕のタイムで駆け抜ける。これはニューイヤー駅伝2区(旧)のケニア人ランナー並みの爆発力である!

私は中継をTVerで観ていたが、ゲストの伊藤達彦(Honda)が「嘘でしょ? すげーな」というようなニコニコした表情をしていたことが印象的だった。

 

ラストの揖斐長良大橋Ep.79参照)を猛スパートで駆け抜けた佐藤は区間賞・区間新記録を獲得。駒澤のリードを広げた。

 

山中秀真選手 2023箱根駅伝時 You Yokkaichi より

 

なお2区では城西大のスピードランナー、山中秀真(四日市工業高校)が出走。地元は鈴鹿市。今年2月に開催された「美し国三重市町対抗駅伝」(Ep.142参照)においてチームを優勝に導いた山中選手が”ほぼ地元”に凱旋した。

 

ただ結果は区間10位。本人としては不本意なパフォーマンスだったことだろう。

 

レースは3区へ。駒澤は篠原倖太朗。予想通り当日変更で3区に登場。1万m27分38秒、ハーフマラソン日本人学生歴代最高記録保持者(1時間00分11秒)の3年生エースである。

後続との差をどんどん離す。

 

他大学は駒澤に対応するため2区佐藤までは手を打った。が、3区まではコマが足りない。

結局、3区終了時点で篠原は2位青学に1分という大差をつけてタスキ渡し。

駒澤の2区・3区のワンツーパンチは強力だった。

 

なお3区では東京国際大学で地元、桑名市出身の佐藤榛紀選手(四日市工業高校)が快走。上位を走っていたこともありTV中継でも紹介された。

 

佐藤榛紀選手(右) 4years. より

 

4区、駒澤は赤星雄斗。ハーフマラソン1時間2分00秒とこの一年で力を伸ばした同選手は、駒澤においては中堅選手だが他大学ではエースを張っていてもおかしくない。

そんな赤星選手と後続のランナーたちがついに私が待機している沿道までやって来た。

 

 

声援と拍手を送る。

私にとっては彼らをスマホで撮ることなんてどうでも良いことだ。

 

周囲を見るとスマホでの動画撮影と写真撮影に注力する人がちらほら。私の近くにいた中年男性など、3分間くらい無表情で動画撮影に集中していた。

彼の目的は何なのか? 動画をSNSにアップして「いいね!」をもらいたいのか? 友人に自慢したいのか? 単なる自己満足か?

沿道観戦に訪れたのに自分のスマホのディスプレイ越しでしか選手を見ていない。応援も拍手もしない。であれば来るべきではない。だいたい選手に対して失礼だろう。

 

4区赤星はさらにリードを広げる。5区へのタスキ渡しの時点で2位と1分22秒差。駒澤の終盤のメンツを考えると他大学にとって逆転は既にして絶望的な差である。

 

伊藤蒼唯選手(出雲駅伝時) 毎日新聞 HPより

 

5区、駒澤は伊藤蒼唯。昨シーズンの2023箱根駅伝6区で初登場して区間賞を獲得したルーキーは2年生になって出雲でも優勝に貢献。同チームにおいて出走メンバーを勝ち獲るあたり、ますます実力をつけているもよう。

区間2位の走りで6区へ。

 

6区、駒澤は安原太陽。3年連続で同区間に登場。彼の出身は「鈴鹿10座」を制定した鈴鹿山脈西側の町・滋賀県東近江市。”プチ地元”である津市を走る。

誰よりも本コースを熟知する安原が区間賞を獲得。7区へ。

 

レース前、駒澤の藤田敦史監督は「7区と8区には絶対的な自信を持っている」と述べていた。

2区佐藤、3区篠原の序盤のワンツーパンチがある上での同発言に他大学は羨むばかりである。

 

7区、駒澤は鈴木芽吹。5000m13分24秒、1万m27分30秒、1年生のときから将来のエースとして期待された同選手はモノが違う。

タスキを受けた時点で2位とは2分21秒差であり優勝はほぼ確定していたものの、偉大なる田澤廉の記録に挑む攻めの走りを披露。気温上昇のため叶わなかったが「史上最強だった昨シーズンを超える」ことを目標に置いた今シーズンの駒澤大学の姿勢を強烈に示した。

 

最終8区は山川拓馬。ルーキーイヤーの昨・全日本4区に登場してから丸1年。箱根5区、出雲3区に出走し「最強駒澤」の不可欠なピースとなった男が、名ランナーがドラマを生んできた19.7kmを疾走する。

2位争いが青学大國學院大、中央大で白熱する中、終始一人旅でTV中継にもあまり映らない。

 

山川は伊勢神宮・内宮宇治橋前のゴールテープを先頭で切ってフィニッシュ。

駒澤大学は1区から1度も首位を譲らない完璧なレースで全日本大学駅伝4連覇、かつ同大会史上最多となる16回目の優勝を果たした。

 

山川拓馬選手 読売新聞 HPより

 

山川は区間賞を獲得。2位青山学院大とは実に3分34秒もの差がついた。

3区篠原が2位以下に1分差をつけた時点でほぼ勝負を決めた(≒他大学は白旗を上げた)と考えると、その場所的にはまだ四日市コンビナートだった。

言い換えると、四日市鈴鹿→津→松阪→伊勢神宮、とまだ70kmもの道のり(!?)があるのに、それでも「1分間」という差はあまりにも大きなものなのだ。

後方でレースを進めるチームはまだしも、トップを走るチームを捉え、逆転するというのは、やはり駅伝において途轍もなくハードルの高いものなのだ。

 

大会公式HPより

 

駒澤は花尾恭輔が出走しなかったのは残念だった。

3年連続で8区に登場して3年連続でトップでゴールテープを切ることで“伝説の選手の一人”になることを期待したが。ただ前日の新聞報道で「状態は7〜8割」という本人コメントからすると致し方なかった。

 

駒澤で脱帽すべきは2区佐藤、5区伊藤、8区山川の2年生トリオである。

佐藤のように名門の京都・洛南高校で5000m、3000m、1500mの高校日本記録を更新したエリートが更なる成長をしている一方で、島根・出雲工業高校(伊藤)、長野・伊那農業高校(山川)出身で高校時代は無名だった選手も出てくる。

 

大八木弘明総監督の著書『必ずできる、もっとできる。』によると、

全員が全員、エリートである組織より、泥臭さを備えたり、個性を備えたりした選手がいる組織の方が間違いなくうまくいく

とあった。

 

社会や企業は声高に「組織における”Diversity(多様性)”の大切さ」を叫ぶが、これほどまでに腹に落ちる例が他にあるだろうか!? いや、ない。

 

ところで完敗した青学の原晋監督がレース後に述べた、

駒澤大学は留学生がいればニューイヤー駅伝でも優勝できるのではないか。まさに学生史上最強

とのコメントは駒澤ファンを歓喜させた。(もちろん原監督としては「その史上最強・駒澤に箱根では勝って俺たちが最強になるんだ」と学生たちに発破をかけて箱根に向けて仕上げてくるに違いない)

 

これは、

もし箱根駅伝を優勝する大学がニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)に出場していたならば、何位を獲れるか?

という、長距離ファンなら必ず1度は考えたことがあるであろう問いに対する、その当事者により提示された非常に興味深い一つの見解であった。

 

さて、これは本当に、実際のところどうなのだろうか?

そこで私は今回「もし、駒澤大学ニューイヤー駅伝2024に出場したら」ということでレースをシミュレーションしてみることとした。

 

<もし、駒澤大学ニューイヤー駅伝2024に出場したら>

[背景]

ニューイヤー駅伝とは毎年元日に群馬県で行われる実業団の日本一を決める駅伝大会である。従って5000m、1万m、マラソンなど長距離種目の世界選手権・五輪代表が集結して競う。

2024年大会はコース変更が施されるためこれの影響がどう出るかはまだ分からない。

 

優勝争いという意味では、Honda、富士通トヨタ自動車が軸となる。これに駒澤大学はどう挑むのか?

 

[1区 12.3km;篠原倖太朗]

篠原倖太朗選手 スポーツ報知 より

 

社会人の格上相手に本気で優勝を狙う駒澤は1区に出し惜しみなく篠原を起用。これにより実業団の有力チームたちとまずは互角のトップ争いができそうだ。

レースは集団で進み10km過ぎからペースアップ。松枝博輝(富士通)、田中秀幸トヨタ)らがスパートするも篠原は余裕でついていく。

 

残り1kmをきってついに篠原が先頭に。そのまま中継点に飛び込みトップでタスキ渡し!

出雲駅伝1区で見せたクレバーな走りをここでも披露した駒澤大学の篠原が並みいる実業団トップランナーたちを抑えて区間賞を獲得! 駒澤、これ以上ない滑り出し。

 

[2区 21.9km;鈴木芽吹]

鈴木芽吹選手 月刊陸上競技 より

 

新2区は正真正銘の日本トップの長距離ランナーたちが集結した。駒澤はもちろん主将・鈴木を起用。トップでタスキを受けて走り出す。

4秒差の2位で田澤廉(トヨタ)が発進。さらに3秒後に浦野雄平(富士通)、その後も20秒以内に伊藤達彦(Honda)、市田孝(旭化成)、吉田祐也(GMO)、近藤幸太郎(SGホールディングス)、井上大仁三菱重工)らが続々とスタート。まさに華の共演の様相である。

各ランナー、入りの1kmは2分42秒前後を記録。もはや彼らのレベルからすると“突っ込ん”で入っている、とは言えないだろう。

 

田澤は3km手前で鈴木に追いつくが鈴木も前につかせず、2人の並走が始まる。やや田澤が引っ張っているように見える。8km手前では伊藤と近藤が3位・浦野を捉えて3人で2位集団を形成。トップの2人とは10秒の差がついている。

15kmを過ぎても状況は変わらず。2位集団の伊藤たちとしてはトップとの差を縮めたいところだがさすがは田澤と鈴木、逆に引き離し20秒程度に差が開こうとしている。

田澤と鈴木の並走、なんて神々しいのだろう。日本中の駅伝ファンが固唾を飲んでレースを見つめる。

 

19km過ぎ、ついに田澤が前へ、しかし鈴木も必死に食らいつく。天から贈られたかのような劇的なシチュエーション下で、ここで負けたら永遠に勝てない、とばかりに憧れと目標の1学年上の偉大な先輩を追う魂の走りである。

残り500mで田澤も苦悶の表情だが影は踏ませない。最終的に中継点にトップで飛び込んできたのは田澤。既にして現役日本人最強ランナーの面目躍如となる駅伝での社会人デビュー戦を堂々の区間賞で花を添える。

9秒差の2位で鈴木。タスキを渡した後倒れ込む。全身全霊をかけた田澤への挑戦が終わった。駒澤、2区を終えて第2位。大健闘である!

さらに25秒遅れで近藤、伊藤、浦野と続く。ここまで(5位まで)で先頭から50秒差と、優勝争いは絞られつつある。市田、井上はさらに30秒後にタスキ渡し。もはや世代交代は確実に進行しているようだ。

 

[3区 15.4km;安原太陽]

安原太陽選手 月刊陸上競技 より

 

3区、駒澤は安原を起用。9秒前の太田智樹(トヨタ)を追う。昨年の同区間賞にして、この1、2年間で最も実力を伸ばした実業団ランナーの太田は明らかに格上だが、鈴木主将が見せた魂の走りを継ぎ全快で前を追う。

その後方の様子を見ると、中谷雄飛(SGホールディングス)、川瀬翔矢(Honda。名張市皇学館大学出身)、坂東悠汰(富士通)と続き、更なる後方では相澤晃(旭化成)、大迫傑GMO)らもスタートしている。

 

中間点を過ぎてトップを快走する太田。安原も検討しているが徐々に差は開く。その後ろでは変化が、坂東が3位まで上がってきている。ただし2位・安原とはまだ15秒程度の差がある。

さらに後方、ケガからの復活が期待される1万m日本記録保持者の相澤だがピリッとしない。大迫に追いつかれる。ものの、大迫は「俺の後ろについて来い」かの様相で相澤を引っ張る。カリスマ、先駆者など、大迫の形容は数多あるものの、高い視座で日本陸上界に提言し、後輩を想う同選手がゆえにそう見えさせているのだろうか?

 

3区終盤、太田は圧巻の強さを見せてトップで中継。その20秒後に駒澤の安原が中継所に飛び込んで来た!

安原はこの1年間、5000mの春の学生王者となりワールドシティゲームズ(旧ユニバーシアード)の日本代表になる(本大会では2位!)など更なる実力をつけた。駒澤大学の驚異的な層の厚さゆえに出雲&全日本大学駅伝ではいわゆる「つなぎの区間」を任されてきた男が、ニューイヤー駅伝の新3区という準エース区間の起用で期待に応えた。

3位以下は23秒差で坂東、川瀬、中谷と続く。大迫と相澤も中継所へ。2人で走る姿は稀に見る光景だったが区間タイムとしては突出したものでなく、従って上位との差は詰まっていない。

 

[4区 7.8km;佐藤圭汰]

佐藤圭汰選手 月刊陸上競技 より

 

唯一外国人ランナーの出走が許されるインターナショナル区間である。しかし駒澤にケニア人ランナーはいない。原監督は「駒澤に留学生がいれば・・」と述べていたがいないのだから日本人ランナーで勝負するしかない。そうなると「佐藤圭汰1択」である。

20秒差でトップのビダン・カロキ(トヨタ)を追う佐藤は入りの1kmが2分36秒。全日本大学駅伝終了後、八王子ロングディスタンスの1万mを経てこのニューイヤー駅伝4区に特化したトレーニングを積んできたとのことで、このハイペースをどこまで持久できるか。

キメリ・ベナード(富士通)、イェゴン・ヴィンセント(Honda)といった優勝を狙うチームのケニア人ランナーたちも前を追う。

 

ビダン・カロキ選手 トヨタ自動車陸上長距離部 HPより

 

4kmを過ぎて異変が。明らかにカロキのペースが上がっていない。佐藤に差を詰められているのである。

広島・世羅高校エスビー食品DeNAと渡り、1万m自己ベスト26分52秒、ケニア代表として計4度の五輪・世界選手権出場。

ビダン・カロキとは「日本長距離界のシステムが育て上げた最強最高のランナー」である。

そんなカロキも30歳を過ぎてここ数年は往時のパフォーマンスを発揮できず。トヨタとしてはその不安が的中してしまった形だ。

 

6km過ぎ、遂に佐藤がカロキを捉え、追い抜く。こんな展開を予想できただろうか?

思えば2007年の箱根駅伝2区で「駅伝史上最強ランナー」メクボ・ジョブ・モグス山梨学院大)が失速して竹澤健介(早稲田大)と黒崎拓克(東洋大)に抜かれた際、TV中継の実況アナが「モグスが日本人に抜かれるところを私は初めて見ました!」と絶叫していたが、あれに似たことが起こっているのだ。

 

篠原・鈴木・安原が魂の継走をし、彼らから勇気と希望をもらった駒澤大・佐藤がトップで中継所へ!

しかし喜んでばかりはいられない。3位ベナードがわずか5秒差でつないだからだ。4位カロキ、5位ヴィンセントもほぼ同時にタスキ渡し。4区が終了して5位までが10秒以内にひしめくという大混戦である。

 

[5区 15.8km;山川拓馬]

山川拓馬選手 月刊陸上競技 より

 

後半の3区間が始まった。山川(駒澤)、塩尻和也(富士通)、西山雄介(トヨタ松阪市、伊賀白鴎高校出身)、青木涼真(Honda)と続く。

山川は選手としてもチームとしても格上の3人に追われる立場としてスタート。だが彼に動じる気配はない。エリートとは無縁の高校時代から王者・駒澤に入学し、ルーキーイヤーは箱根5区山登りにてトップで青学とほぼ同時にタスキを受けると独走して往路優勝のゴールテープを切った。そんな同選手は、度胸とハートの強さも売りである。

 

まずは塩尻がこの若者に襲いかかる。わずか1kmで山川に追いつき、追い越す。後ろにつく山川。塩尻としてもここで一息つく余裕はない。後方から青木と西山雄が来るのでハイペースを維持せざるを得ないからだ。

中間点を過ぎる。4人は6秒以内にひしめく大混戦である。

 

最初に脱落したのは西山雄だった。マラソンでのパリ五輪出場を狙う同選手は2月に行われる東京マラソンに向けたトレーニングの真っ最中。1万m27分台のベストも持つものの、現状では15.8kmのロードレースに対応するスピード持久力はなく、ずるずる後退していく。

トップは3人の集団となっていた。塩尻、山川、青木。5区はいよいよ終盤を迎える。

 

塩尻の表情が苦しいものとなっていく。本区間は「赤城おろし」による向かい風と上り坂が立ちはだかるニューイヤー駅伝の最難関区間。ここまで先頭で一身に風を受けてきた影響が現れ始めたのか? 塩尻としても2位でタスキを受けたのだから、山川を捉えた際、彼の後ろについて「風よけ」とするプランもあっただろうが、それを実行しなかったのは3000m障害で日本チャンピオンになったこともあるプライドゆえか、あるいは格下(学生)相手への慈悲であったか?

後ろについていて塩尻が疲れてきたことに気付かないはずもない山川は、5区残り3kmの地点で前に出る決断をする。駒澤、再度トップへ!

 

もちろん青木も同様に前へ。スパートをかけた山川と青木に対して塩尻は対応できず、2人との差が徐々に開いていく。

当然、ここで青木はさらにギアを上げて山川の前に出、突き放したいところだが意外にも余力を残していないように見える。実は同選手も、今夏のパリ五輪出場を3000m障害で目指す選手の一人。適性ゆえ5区に起用されたものの、3障のトレーニングを積んでいた現状では15.8kmという長丁場に完全に対応できていなかったようだ。

 

山川、力強く前へ。実業団の格上3人を、タスキ受け取り時点から更に離す、衝撃の走り! いくつかの幸運を味方につけて、されど駒澤にとって「同区間は山川しかいない」という必然を基に。トップで中継所へ!

 

[6区 11.2km;赤星雄斗]

赤星雄斗選手 朝日新聞より

 

6区、駒澤はトップでタスキを受けて赤星がスタート。同選手の駒澤大学における駅伝歴では常なるシチュエーションである。「つなぎ区間」や「後半区間」との呼称ではどうしても「実力が劣る選手」と見られるが、当該区間特有の「走り方」があるのが駅伝という競技であり、それを実行できるチームが“駅伝力”を有するとされるのだ。

10秒差の2位で丹所健(Honda)、さらに10秒差の3位で鈴木健吾(富士通)、さらに15秒差の4位で西山和弥(トヨタ)がスタート。ここまででトップ駒澤から35秒差。優勝争いという意味では4チームに絞られた。

 

快調に自分のペースを刻む赤星。距離の短い新6区ではすぐにでもトップに追いつくしかない2位の丹所だが差は詰まらない。2年前、東京国際大3年生時の調子ならば捉えておかしくないが、やはり当時までの状態には戻っていないようだ。

ラソン日本記録保持者・鈴木と2023世界選手権マラソン日本代表の西山和。この区間での2人の起用はなんとも贅沢に思えるが、パリ五輪出場をマラソンで狙う2人は実は同駅伝に特化したトレーニングをしていなかった。「6区11.2kmの短さならば負担はないし区間上位では走ってくれるだろう」というコーチ陣の“消極的な”采配により起用されているにすぎなかったのだ。そんな状態の彼らであるから、この駅伝、この区間に照準を合わせてトレーニングしてきた赤星にとっては敵ではなかった。

 

赤星はラストも上げて2位以下との差を離しにかかる。

このあたりで監督・コーチの控え室からは「マジで駒澤が優勝しちゃったな..」という声が聞こえ始める。

6区、結果的に上位に順位変動は起こらず。赤星と駒澤大学、とうとうトップでアンカーにタスキを持って来た!

 

[7区 15.6km;花尾恭輔]

花尾恭輔選手 JB pressより

 

駒澤大学の7区、栄光のアンカーを託されたのは花尾恭輔である。長距離ロード適性でチーム内屈指の同選手は2023箱根駅伝を体調不良で欠場して以降、出雲と全日本も欠場。そんな彼が今シーズンの駒澤大学のラストにして最大の挑戦である本駅伝に満を持して登場したのだった。

2位・中山顕(Honda)は中継所で遥か30秒以上の後方から前を追う。逆転に望みをかける。

 

しかし花尾の走りは力強い。ブランクを感じさせない。藤田監督、大八木監督ももう確信しているようだ。もはや駒澤の優勝は確定しつつある。一歩一歩、ゴールに向かって走る花尾。

 

監督・コーチの控え室、走り終えた他チームの選手たち、及びTV中継の陸上関係者たちからは「やりやがった」「信じられない」「駒澤すごすぎ」「脱帽です」「実業団が大学に負ける? 冗談じゃない(怒)」「しかもケニア人いないよね? やばっ!」などの声があちこちで聞こえる。

そんな声はつゆとも知らず、花尾はついに群馬県庁前へ。沿道の観戦に訪れたファンたちが歓喜で湧くなか、ついにフィニッシュテープを切ったのだった!! 駒澤、優勝!!

 

自分たちが最強だと証明するため、実業団No.1を決めるニューイヤー駅伝への参加という空前絶後の挑戦をし、見事勝利した”駒澤大学2023”。

この物語は、日本陸上長距離界における”神話”として永遠に語り継がれていくことだろう。

(笑)

 

月刊陸上競技 より

 

というシミュレーションをしてみた訳だが、話を「全日本大学駅伝2023」に戻そう。

出雲・全日本を勝利した駒澤は2年連続の「大学駅伝3冠」という大偉業に王手をかけた。2ヶ月後の箱根駅伝2024では「3大駅伝6連勝」という記録にも挑む。

 

全日本に特化すると、これで4連覇を達成。通算16回目の優勝はもちろん単独最多である。

全日本大学駅伝とは、駒澤大学の勝利の歴史

それを地で行く今大会となったのであった。

 

 

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All Japan University Ekiden Championship 2023

Ep.180

“All Japan University Ekiden Championship 2023” was held alongside Route23 from Nagoya to Ise-jingu shrine, way to Yokkaichi, so long 106.8km.

This year, Komazawa university won this race, in other words they achieved their 4 consecutive win and their so many 16 times champion!!

 

Especially, this team was said to “The Strongest of All Time”.

If so, are they able to also win “All Japan Businessman Ekiden Championship”?

I imagine Komazawa’s participation and its race development.

 

daigaku-ekiden.com

www.sponichi.co.jp