Ep.144
東京・日野市に住んでいたとき、近所に「三河屋」というローカル豆腐屋があった。
スーパーでは販売されていないそのお店の豆腐はとても美味しく、
「豆腐は豆腐屋」なんだな、と強く思った。
私はスーパーマーケットは好きだし(Ep.49など参照)、一箇所ですべて完結するのはこの上なく効率的だと思うが、しかしその一方で「各食材を各々の専門店から調達する」という生活に密かに憧れを抱いていたりする。
すなわち、
野菜は八百屋、果物は果物屋、魚は魚屋、肉は精肉店、ケーキはケーキ屋、そして豆腐は豆腐屋というように。
なぜ?
専門店で扱われてる食材の方が質がいいし値段も安いから
という理由ではない。
スーパーの野菜が八百屋のものよりもことごとく劣っている、なんてことはないだろう。
料理評論家、マイケル・ブース氏の著書『英国一家、フランスを食べる』を読んでいたとき、ある記述に出会った。
世界一のフランス料理学校「ル・コルドン・ブルー・パリ」に入学することになった著書は、家族とともにパリに移り住む。
パリ中心部では大型スーパーの出店が禁止されており、したがって著者は日常の料理に用いる食材をプレジダン・ウィルソン通りの市場から調達することになる。
当初、外国人観光客か一見さんと思われて露天の各店主たちから親身に応対されなかった著者だが、通い続ける中で顔を覚えられ、彼らと会話を交わすことで徐々に関係が深まっていく。
「 僕は少しずつだが変化を感じとっていた。行きつけの果物店でメロンを選んで渡すと、いつ食べるつもりなのかと聞かれ、「週末」と答えると、店主はメロンを嗅いで手で押してみて首を振り、別のと替えてくれた 」
「 カマンベールチーズにも食べごろがあるのは知っていたが、行きつけのチーズ屋が「来週用」に注意深く選んでくれたチーズには驚かされた。彼女は6個ぐらいのチーズの中から、1番良いものを選んでくれた 」
私は上のような、食材をめぐる売り手と買い手の関係性に憧れていた。
店主自ら"最適な"食材を選定してくれる。食材や調理に関するアドバイスもくれる。
という訳で、四日市に越して来たばかりの頃、近所に魚屋さんがあったのをいいことに、よく週末に買い物に出かけていた。
そのお店は小さく、昔からの魚屋さんだった。
私はご主人と積極的にコミュニケーションを図るべく、
「この魚は何の料理にするのが良いですか?」
とか
「お造りを1,000円分お願いします」
などとお願いしていた。
ご主人は無口な方だったが優しく応じてくれた。
事は順調に進んでいたのだが、ある日関係は突如として終了した。
お店が閉じてしまったのだ。
誠に勝手ながら閉店する、旨を告げる紙一枚が入口に貼られているのを見たとき、切なく、残念に思った。
冒頭の「豆腐は豆腐屋」の話に戻ろう。
「岡村とうふ」である。
松阪市に本社を持ち、スーパーでも販売されているが、私の住む四日市のアパートの近くには移動販売でやって来る。
ラッパの音が聞こえると、岡村とうふの販売車が来た合図だ。
豆腐、油揚げ、ひりょうず、おから(無料)、etc..
大豆に由来する品々が並ぶ。
もっともウチの近所にやって来るのは平日なので、毎週購入して販売員の方と特別な関係を築く、というのは私にとって難しいが、それでも「専門店から入手する」というのは充足感がある。もちろん、みなとても美味しい。
ローカルお豆腐屋「岡村とうふ」の移動販売は、今日も地域を巡っている。
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岡村とうふ Okamura Tofu
Ep.144
岡村とうふ Okamura Tofu is a local Tofu maker and do mobile sales, so that we can get easily various items in our neighborhood. That’s so nice!