Ep.186
三重ホンダヒートの23-24シーズンホーム開幕戦は12月16日(土)。
前節(前週)、敵地でコベルコ神戸スティーラーズに15-80での大敗は、Division1での洗礼を受けたと言ってよいだろう。ファンにとっても実力差を痛感させられた試合となった。
そんなヒートがホームで昨シーズンの王者を迎え、初勝利を狙う。
まずチーム名が変である。
なぜ「船橋」と言い切らないのか? 「東京」を入れたいのか? 「東京湾」ではなく「東京ベイ」なのか? 「船橋・東京ベイ」に違和感を抱かなかったのか?
練習場が船橋市でホームエリアが江戸川区、千葉市などの東京湾最奥部東寄りのエリアのためこうしたチーム名になったようだ。
これを三重ホンダヒートに当てはめてみると、
というところか。
マジメに考えてくれよ、というような変なチーム名である。
が、クボタスピアーズとは昨シーズンのチャンピオンチームである。
ワールドラグビーと同じように、日本ラグビーのクラブチームも純然たるエリートたちが跋扈する世界である。
コベルコ神戸スティーラーズ(旧・神戸製鋼)、東京サントリーサンゴリアス(旧・サントリー)、東芝ブレイブルーパス東京(旧・東芝)、埼玉パナソニックワイルドナイツ(旧・三洋電機)といった4チームはこの20年、常に最上位に君臨している。
一方で中下位のチームが一気に強くなって優勝をかっさらうということは極めて稀である。序列の変化はなかなか起こらないのだ。
しかし昨シーズン、世にも珍しいことが起きた。“オレンジアーミー”と呼ばれるファンに後押しされたチームが優勝したのだ。
長年、中堅から下位のチームにすぎなかったスピアーズ(旧・クボタ)。それが数年前から徐々に上位を食うようになっていき、ついに昨シーズン、プレーオフ決勝で埼玉ワイルドナイツを破ったことは衝撃だった。
スピアーズが強くなり始めた時期、それは現ヘッドコーチ、フラン・ルディケ氏(南アフリカ)が就任し、大卒5年目のCTB/SO立川理道(たてかわはるみち。天理大出身)が主将となった時期と一致する。
2人は現在においてもスピアーズの中心であり“象徴”である。
ところでこの試合は「県民スポーツ応援DAY」だったため、事前応募のあった三重県民は無料での観戦が可能であった。県民にヒートとラグビーのファンになってもらおうと企画されたものだが、ラグビー観戦上級者(自称)の私もタダに乗っかって家族でピクニック気分で訪れたのだった。
クルマで試合開始10分ほど前にスタジアムに到着。周辺の人だかりを見て「やはりDivision1はお客さんの入りが違うな」と呑気に思っていたら周囲の駐車場がどこも満杯。いろいろさまよったがどこも入れず。誘導員の方に聞くと「本田技研の駐車場」に行くよう言われる。「私らもそう言われてるもんで」とあまり要領を得ない。その場所は1.5kmも離れたところなんだけどな、と思うもとりあえず行ってみると大型観光バスが待機していた。これで本田技研駐車場とスタジアムをピストン輸送しているらしい。
バスに乗り込むとき、感謝とお詫び(?)の印に赤福をもらった。これを臨時駐車場利用者に配っているようだ。なんて太っ腹なのだろう。
シャトルバス内では前方上方のテレビ画面からヒート主将の古田凌選手らが
「臨時駐車場のご利用ありがとうございます。勝ちます!」
とのVTRなどが流されている。
ホスピタリティが細部まで行き届いているなと感動した。
13分ほどかかってスタジアムに到着。入場してゴール裏に腰を下ろす。前半30分くらいまで過ぎてしまっていたがここから試合観戦だ。
試合は開始からクボタスピアーズが猛攻をかけていた。強力なFW(フォワード)が武器のスピアーズだが前半からBK(バックス)陣が圧倒する。32分には鮮やかパスワークで外まで回してライン参加したFBゲラード・ファンデンヒーファーが悠々と走りきってトライ。まるでオールブラックスを見ているかのようだ。SOバーナード・フォーリーもまったくキックを外す気がしない。
前半終了で0-40。6トライを許しており既に敗色濃厚である。
<クボタスピアーズの“象徴”立川理道>
この試合もインサイドCTB(12番)で先発のスピアーズ主将・立川選手。
私にとってはやはり15年W杯、南アフリカ戦が鮮烈に思い出される(Ep.30参照)。
立川はキレのある鋭いランと豊かな突破力でスプリングボクスBK陣をキリキリ舞いさせた。
かつて山下大悟や今村雄太(ともに早稲田大のCTB)が大学ラグビー界でやっていたことを、立川はW杯でワールドラグビー界の“巨人”相手にしていたのである。
「この立川という選手は一体何者なのか?」
恥ずかしながらそれまで立川選手を知らなかった私はリアルタイムでこの試合を観て衝撃を受けていた。
しかも前半、幾度となく立川を突っ込ませたのは実は後半に向けた布石だったから尚驚いた。
相手ディフェンスの最大級の警戒が立川に向いたところで後半28分、同選手のデコイラン(自らが囮になって味方をいかすラン)でSO小野晃征→WTB松島幸太朗→FB五郎丸歩とつないだあの伝説のトライが生まれた。エディ・ジョーンズHCもにんまりだった。
そして緊迫の試合最終盤にはSOとなり、同チームでは“禁断”だった飛ばしパスをNo.8アマナキ・レレイ・マフィに放り、最終的にWTBカーン・ヘスケスのトライを生んだ。
この試合における立川の活躍というのは本当に常軌を逸したものであり、
「スポーツ史上最大の番狂わせ」の一番の立役者だった。
話をヒートvsスピアーズに戻そう。
後半も立川主将率いるスピアーズの勢いは止まらなかった。
BK陣は相変わらず力強く、センタースクラムからのBK展開だけで普通にラインブレイクしてトライまで持って行ってしまう。
これでは高校ラグビーで実力差が大きいチームの対戦と同じである。
自軍のBKが相手BKを止められないからその度に背走する。元々フィジカルバトルで劣勢に立つ自軍FW陣はどっと体力を消耗する。
終わってみれば0-75。1トライも奪えることなく、内容も良くなく、ただただ圧倒された80分間であった。
ヒートファンとしては彼らのこの試合のパフォーマンスに対して厳しいことを言わざるを得ない。
特にBK。ディフェンスがザルだ。まったく機能していない。フィジカルの差ではなく確認・連携不足であったように見受けられる。対応が急務である。
15-80、0-75。2戦連続での大敗。フィジカルバトルでの劣位。Division1 強豪との実力差はこんなにも大きいものか。
ヒートにはスプリングボクスのW杯2連覇戦士、LOフランコ・モスタート(Ep.183参照)がフル出場した。しかしワールドクラスが一人いても、ラグビーでは大勢に影響を与えない、という当たり前の事実を再認識しただけだった。
いやしかし、この点差ほどの実力差はないばず、というのがファンとして信じたいところだ。
FWの中心であるFLパブロ・マテーラ、LOヴィミリアン・カイポウリといった選手がケガでメンバー入りできないのも大きいが、シーズンが深まるにつれチーム力は上がってくるはず。
古田凌主将は大敗にも前を向いた。チームの雰囲気は悪くないと。
格上との戦いは続く。
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Rugby Mie Honda HEAT vs KUBOTA Spears Funabashi Tokyo-Bay
Ep.186
Match Week2 of Division1, Mie Honda HEAT welcomed Kubota Spires Funabashi Tokyo Bay to the Suzuka stadium.
But they were overwhelmed by Kubota’s strong FWs and BKs, as a result 0-60, no try and no score.
The opening match of their home in this season was too hard.