みんなの笑顔が三重(みえ)てくる Jima-t’s diary

「地域性」に光をあて、「違い」を学び、リスペクトし、楽しむというスタンスで四日市や三重の魅力を伝えていきます

ラグビー 三重ホンダヒート vs 日野レッドドルフィンズ 編

Ep.89

東京の日野市に住んでいたときの話だ。

ある金曜日、会社帰りにJR日野駅前の「やよい軒」でひとり夕食を食べていた。

 

すると隣のテーブルにいた若い男性がノートパソコンとにらめっこしていた。彼が着てきたジャンパーには「日野自動車レッドドルフィンズ」とある。

当時、トップイーストリーグのディビジョン1(トップリーグの2部に相当)に参戦していた社会人ラグビーチーム(日野自動車ラグビー部)だ。

 

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(現)日野レッドドルフィンズ

選手には見えないその人は何らかのコーチかスタッフに違いなく、他チームの戦術分析担当者か、あるいは栄養やコンディショニング関連の専門家かなと思った。

彼の仕事と食事を邪魔するのは悪いと思ったが、思いきって話しかけてみたら、さわやかに応えてくれた。

 

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公式HPより

 

もちろん、私とてラグビー関係者を見たら誰かれ構わず話しかけるわけではない。けれどその日は、ラグビーに携わっている人と一言会話を交わしたい、そんな特別な日だった。

 

2015年9月19日

イングランドで開幕したラグビーW杯の日本代表の初戦、南アフリカ戦が数時間後に迫っていた。

 

「今日、南アフリカ戦ですね。期待したいですね!」

と言ったら、

「そうですね! がんばってほしいですね!」

と、さわやかに応えてくれた。

 

当時アパートで一人暮らしをしていた私は、日本時間の深夜に行われるこの試合を楽しみにしていた。

もちろん、ジャパンが勝てるなんて思っていなかった。名将エディー・ジョーンズ監督に率いられた今大会はどんなチームなんだろう、と思っていた。

 

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ラグビーW杯2015の日本代表 日本ラグビー協会HPより

 

試合が始まる。

前半、ジャパンは健闘する。

10対12という驚きの僅差と互角の内容で折り返した。

 

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日本vs南アフリカ W杯公式HPより

 

私はこの試合をNHK BSで観ていた。ハーフタイム、東京のスタジオに中継が切り替わった。

すると解説者の砂村光信さん(明治大→リコー)が、戸惑い、こわばった表情で述べていた。

これはほとんど奇跡だと思います

 

続いてタレントの吉木りさが、ニコニコしながら

「すごいですね」

と感想を述べていた。

 

両者のリアクションは、長年日本ラグビー界の発展に尽力してきた者と、この競技に関する知識をまったく有していない者、との間に横たわる絶望的に大きな差異を非常に印象的に表していた。

 

前半を終えたにすぎない。しかし女性タレントはこの状況の「意味」をまったく理解していなかった。

ただしもちろん、砂村さんも日本のラグビーファンも私も、

「後半どうせ引き離されるんでしょ」

と思っていた。誰も、勝てるなんて思っていなかった。

 

しかしジャパンは後半も食らいついて離されない。

10年前、私が秩父宮で観戦したとき(Ep.30参照)とは別人に成長した逞しき五郎丸歩のキックが冴える。

 

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南アフリカ戦の五郎丸歩 朝日新聞デジタルより

 

そして訪れた後半アディショナルタイム。逆転トライを目指すジャパンのゴール前のアタック。試合はクライマックスを迎えようとしていた。

私は既に立ち上がり、テレビの前に張り付いていた。

 

「あー! え? わーーー! えぇ? あぁ! あー! あーーー! ……や、やりやがった……」

 

この時の私の発した言葉を文字に起こすとこのようになる。日本時間の深夜だったが、もちろん私はひとりアパートで叫んでいた。

 

一方でこのシーンを文字に起こすと、

SO立川理道からの飛ばしパスがNo.8アマナキ・レレイ・マフィに渡り、マフィが突進してハンドオフで相手を一人ぶっ飛ばして二人目を引きつけてから大外のWTBカーン・ヘスケスへ飛ばしパス。受け取ったヘスケスは5m前のトライラインめがけて走る。この時点で99.5%トライ確定なのだが、それでも相手のエースWTB JP・ピーターセンが残り0.5%の可能性にかけて渾身のスピードと完璧なタイミングでグラウンディングを阻止するべく、この状況下において考えられうる最高のトライ・セービング・タックルを試みるもやはり間一髪届かず。ヘスケスを中心にジャパンの選手たちの歓喜の輪が拡がる。

といったところだ。

 

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カーン・ヘスケスとJP・ピーターセン Number webより

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日本ラグビー協会HPより

 

私は喜ぶ、というよりも呆然としていた。

 

この試合、日本が勝った相手はカナダではないしフィジーでもない。さらに言うとフランスでもイングランドでもオーストラリアですらない。

南アフリカに勝ってしまったのだ。

 

ワールドラグビーにおいて、ニュージーランドオールブラックス)と南アフリカスプリングボクス)は特別だ。

ただの1勝ではなかった。インパクトが違う。

その試合までの日本代表のワールドカップ通算成績は1勝2引分け21敗。

世界から貼られた「ラグビー弱小国」というレッテルを自ら剥がしたのだ。

 

この出来事は世界中のラグビーファンの度肝を抜き、嵐のような歓喜を巻き起こした。

世界から注がれる「視線」を獲得し、己の未来を永遠に変えたという意味においては、日本ラグビー界に今後二度と訪れることのない「奇跡」だった。

その30年間の世界中のあらゆるスポーツ競技の中で最大の番狂わせだったに違いない。

 

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スポニチより

 

深夜の興奮も冷めやらぬまま眠りについて正午近くになって起床した私は、

「すごい試合だったな。南アフリカに勝った…んだよね?」

といまだ覚醒しない頭でテレビをつけた。

 

すると民放のお昼の5分間ニュースでアナウンサーが伝えていた。

 

イングランドで開幕したラグビーのワールドカップ。日本代表は初戦、過去2度の優勝を誇る強豪の南アフリカを34対32で破る大金星を挙げました」

 

これを聞いたとき、

「あぁ、あれは夢じゃなかったんだな」

と思ったのだった。

 

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“The Beat Boks” W杯公式HPより

 

日野自動車ラグビー部との他の関わりでいうと、当時チャリで通勤していた道中に練習グラウンドがあったり、家の近くのコンビニでコピー機を操るトンガ人選手を見かけたり、といったところで、彼らの試合を観に行く機会には恵まれなかった。

 

 

と、話の都合上、日野レッドドルフィンズから入ってしまったが、今回書きたいのは「三重ホンダヒート」についてである。

鈴鹿市をホームグラウンドとしてジャパンラグビーリーグワンの2部リーグに参戦している、本田技研工業の社会人チームだ。

 

トップリーグの最終年度だった昨シーズンは、1部リーグのレッドカンファレンスに参戦して強豪たちと戦っていたが、1勝6敗という低成績だったこともあり今シーズンから始まった新リーグにおいては事実上の降格となってしまった。

 

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三重ホンダヒート

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公式HPより

 

私は四日市に越してきて以来、何度かホンダヒートの試合を観に行こうとチケットを取ったこともあったが、コロナ禍による中止などで叶わず。今回がようやく初めてのスタジアム観戦である。対戦相手は日野レッドドルフィンズ。会場はサッカーの試合でもお馴染みの「スポーツの杜 鈴鹿」だ。

 

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三重ホンダヒートは長らくチームの看板選手だった日本代表PR グ・ジウォンが移籍(コベルコ神戸スティーラーズへ)してしまったが、チーム力で好成績を収めて昇格したい。

一方の日野レッドドルフィンズ。2年前まで自分が暮らしていた街のスポーツチームが現在暮らしている地域にやってきて試合をするなんて嬉しい。だから日野にもがんばってほしい。

 

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キックオフ!

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チケット購入の際、よく空いていたので座席指定で前の方を取った。

すると思ったよりも近かった。わずか10m先でラインアウトスクラムも行われている。ここまで近い席から観るのは初めてかもしれない。

 

ゴツン!

と体がぶつかりあう音が聞こえる。

 

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ホンダヒートのLOはフランコ・モスタート選手(南アフリカ)。2019W杯の優勝メンバーで唯一のビッグネームだ。ラインアウトで競り合っている。

 

ブレイクダウン(密集でのボール争奪局面)の様子もよく見えた。

ホンダヒートのある選手が「ラック」をした。高校でラグビー部に入部した1年生が最初に習う際にお手本で示されるようなきれいなラックだった。

ところが味方のオーバーが遅く、かつ相手ディフェンス選手の体(たい)が十分に生きていたこともあり、

ニュうっ、と長い手が伸びてボールに絡まれ、ノットロールアウェイを取られてしまった。

 

このプレーを見たとき私は思わず考え込んでしまった。「きれいなラック」はこの人たちのレベルになると適していないのかもしれない。きれいじゃなくてもできるだけ味方がサポートに来るまで粘るのがいいのか。でもそれだとジャッカル(相手にボールを奪取されること)される可能性があるし...

ノットロールアウェイもジャッカルも、本当に紙一重のところで行われているのだ。

 

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試合の方はというと、両者ほぼ互角で接戦が繰り広げられていた。

そんな展開で逃げ切ったのはホンダヒート。前半から相手ゴール前に迫ると必ず得点を挙げて帰ってくる、という理想的な効率の良さを発揮し、このリーグにおける「自動車メーカー対決」を制したのだった。

 

地元の三重・鈴鹿から1部昇格を目指すホンダヒートの戦いを、これからも応援していきたい。

 

 

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Rugby Mie Honda Heat vs Hino Red Dolphins

Ep.89

Mie Honda Heat is a rugby football team based on HONDA company in Suzuka and compete between 5 teams into Japan Rugby League ONE, Division2.

 

This day, they fought against Hino Red Dolphins from Hino city, Tokyo which was my former residence!

 

Only 10 meter front of me, scrum, lineout and breakdown, such performances were done.  It’s awesome!

Finally, Honda Heat defeated Hino Red Dolphins, 32-24.

I had a wonderful time in the stadium.

 

www.honda-heat.jp

 

https://hino-reddolphins.com