みんなの笑顔が三重(みえ)てくる Jima-t’s diary

「地域性」に光をあて、「違い」を学び、リスペクトし、楽しむというスタンスで四日市や三重の魅力を伝えていきます

ラグビー 三重ホンダヒート vs 花園近鉄ライナーズ 編

Ep.98

オーストラリアのラグビー選手、クウェイド・クーパーはスーパースターだ。

変幻自在のパス、華麗なステップ、俊敏な動き、予測不能なプレー。

もはや死語だがサッカーで言う「ファンタジスタ」といったところだろうか。

 

Quade Cooper  The Guardian HPより

 

「魅せる」スタンドオフ(SO)という意味では、ワールドラグビーの歴史の中で、“キング”・カーロス・スペンサー(ニュージーランド)とこのクーパーくらいじゃないかと思う。

 

“King” Carlos Spencer  All Blacks official twitterより

 

ちなみに若い頃のクーパーはプロボクサーでもあった。

クルーザー級(90.7kg以下)で3戦3勝3KOという実績を持つ。二刀流であり、規格外のスーパーアスリートだ。

 

Fox sportsより

 

11年W杯を豪州代表(ワラビーズ)の正SOとして3位に導いた後、しかしクーパーは不遇の時を過ごす。ディフェンス面で弱点があったのだ。プロフィール上は187cm、90kgの堂々たる体格に見えるが、身体の線の細さは否めなかった。

相手チームから執拗に狙われ、突進をタックルで止められない様は、すなわちチームをピンチに晒すことでもあった。

(そうなのだ。ついつい忘れがちだがSOというポジションは相手から最も近い場所でディフェンスすることになるためタックルが上手な選手でなければ務まらない。日本代表の田村優も松田力也もフィジカルが強い選手なのだ)

 

Fox sportsより

15年W杯は代表メンバーには選ばれたものの、格下相手の試合にだけ登場して魔法のようなプレーで魅せるのみ。ベストメンバーを揃えて「全力で」勝ちに行く試合ではベンチ入りすらできず。いわゆる「飼い殺し」状態だった。

 

世界的な選手に対して私なんかがこんなことを言うのは変だが、可哀想だなと思った。当時の代表監督の好みもあったのだろう。リスクを取らず堅実なゲームメイクを求めたのかもしれない。

サッカーイタリア代表アッズーリでかつてロベルト・バッジオアレッサンドロ・デルピエロが冷遇されたのと似ている?)

 

その後クーパーは7人制ラグビーEp.54参照)に参戦して16年のリオデジャネイロ五輪を目指した。

それは良いアイデアのように思えた。

この天才には「より広い空間とより自由な時間」を与えてこそ、いっそう輝くと思われたからだ。

 

しかしそれも挫折する。ワールドラグビー連盟と国際オリンピック委員会の「市民権」に係る定義の問題で、五輪の豪州代表としての出場資格が認められなかったためだ(クーパーの出生地はニュージーランド)。

 

Wide world of sports HPより

19年W杯は召集されず。そして大会終了後、日本のトップリーグ(当時)の「2部」に参戦していた「花園近鉄ライナーズ」へと移籍した。

しかもワラビーズとスーパーラグビーのレッズでずっとチームメイトだった盟友、SHウィル・ゲニアも一緒だ。

 

花園近鉄ライナーズへ The west Australian HPより

クーパー(とゲニア)の近鉄への移籍は世界と日本のラグビーファンを驚かせた。

19年W杯終了後、数多のスターが日本の「1部」リーグに移籍したのとは一線を画すことだったし、ワールドラグビーの舞台からフェードアウトした象徴性をも兼ねたものだったからだ。日本の2部リーグで穏やかにキャリアの晩年を過ごすのだと、誰もが思った。

 

 

そんな訳だから21年の9月、クーパーが4年ぶりに、ワラビーズの黄金のジャージィの背番号10を背負い、ワールドラグビーの舞台に帰還したことは大きなニュースだった。

コロナ禍に起因する豪州の「SOの選手不足問題」により、実績あるベテランが召集されたのだ。そしてそれはファンからもチームメイトからも、最上級のリスペクトで迎えられた。

 

相手は19年W杯王者・南アフリカ。そしてこのようなシチュエーションで、鬼のごとき活躍をしてしまったのだから役者が違う。

 

Planet rugby HPより

ゴールキックの成功率は8/8。1点差ビハインドで迎えた後半アディショナルタイム。「逆転サヨナラ・ペナルティゴール」を決め、チームを28-26の劇的な勝利に導いてしまった。

 

日本でもお馴染みになった金髪長髪のSHファフ・デクラーク、同国初の黒人主将シヤ・コリシといった選手たちが、クーパーのキックに沈んだ。

 

歓喜するチームメイトと観客たち。

クーパーの「歴史的帰還」はこの1試合に限ったものだったかもしれない。そうだとしても、世界の舞台で再び繰り出されたクーパーの「魔法」は、今後も語り継がれてゆきそうだ。

 

Rugby world HPより

 

と、話の都合上、花園近鉄ライナーズから入ってしまったが、私が応援しているのは三重ホンダヒートである。

3月下旬、ホンダはホームスタジアムの「スポーツの杜 鈴鹿」で近鉄を迎えた。

 

私はこの試合を観戦するのを楽しみにしていた。

「今度の週末はクーパーとゲニアの黄金コンビを観に行くんだ」

「クーパーの魔法を鈴鹿で見られるんだ」

私はワクワクしていた。

 

かつて近鉄ライナーズといえばこの人だったLOルーク・トンプソン(2008年当時)

 

そんな訳だから当日、近鉄のスタメンとベンチ入り選手を示したボードの中に、クーパーの名前もゲニアの名前も無かったとき、目が点になった。

彼らのプレーを見られないじゃないか!

 

非常にしょんぼりしながら、でも試合前のウォーミングアップにはいるかもしれないと思い早めにスタンドに行って目を凝らしたが姿を確認できず。下手するとこの遠征に帯同すらしていないかもしれない。

 

試合前の近鉄のウォーミングアップ

すると、私の前列に座っていた私よりも年配の男性2人組の会話が聞こえてきた。

「スタンドのあっちの方にクーパーおったで!」

「ホンマ!? よく分かったな」

「マスクしとったけど、髪型で分かった」

「次の試合出ますか? って聞けばよかったじゃん笑」

 

そうだよね。クーパーのプレーを見たかったよね。おれだってそうだよ。

 

キックオフ

今回もかなり前の方の席で観戦だ。近鉄のLO サナイラ・ワクァ選手の身体が呆れるほど大きい。プロフィールでは202cm、120kgだ。しかもステップもできて走力もあるから手に負えない。

 

LOサナイラ・ワクァ選手 リーグワンHPより

 

と、近鉄の選手のことばかり言及しているが、私が応援する方はホンダである。

格上相手に一泡吹かせることを期待すると、本当に彼らは試合を有利に進める。前半1分のキックチャージによるノーホイッスルトライを皮切りに、終始リードして前半を終える。

近鉄はクーパーとゲニアの黄金コンビを欠いて苦しそうだ。

 

LOフランコ・モスタート選手 三重ホンダヒートHPより

 

そうなってくると近鉄側の注目選手はジャパン期待のCTBシオサイア・フィフィタだ。私がこれまで見てきた大学ラグビーの中で、フィジカルと突破力に関して、歴史上最強のCTBだと思う。対明治、対早稲田では相手陣を焼け野原にしていた。

天理大学を初の大学日本一に導き、強豪からのオファーを蹴って「地元関西で引き続き頑張る」と宣言して2部の近鉄に入団したカッコイイ選手だ。

 

前半は沈黙。しかし後半、アンストラクチャー(ハイパントキックなどで両チームの陣形が構築されていない状態)からボールを持ち、中央をぶち抜くランをしたときは驚愕した。

その爆発的な加速力は、全盛期の大畑大介Ep.30参照)を思い起こさせたからだ。

このとき、私はなぜフィフィタが日本代表ではWTBで起用されているのか分かった。走力についても驚異の能力を持った選手なのだ。

 

CTBシオサイア・フィフィタ選手 花園近鉄ライナーズHPより

 

さて、後半はというと、終始リードしていたホンダに「シンビン・トラブル」が起きていた。印象的だったのは最初のイエローカード(による10分間退場)。場内アナウンスによると、意図的なノット・テンメーター・バックとのこと。

高校ラグビーではお馴染みの「ノッテンバッ」であるが、このレベルで起こることは珍しく、かつ意図的にやると退場になっちゃうんだ、という厳しさに驚き。

 

結局、ホンダはイエロー→レッド→イエローカードという怒涛の3連続退場(あとの2つは危険なタックル)をくらい、一時は13人対15人の状況。このときに逆転されてしまった。

 

花園近鉄ライナーズHPより

自滅といえばそれまでだし、応援しているチームがこうなってしまったから思うことなのだけれど、何というか、世知辛い時代(ルール)になったな。と思う。

 

「疑惑」のプレーがあるとアシスタントレフェリーから主審に「たれ込み」が入り、問答無用でテレビジョン・マッチ・オフィシャルが発動して灰色のプレーにもたいてい罰が与えられる。

オフェンスに有利な方向にルール改正がなされるのは支持するけど、ここまで容赦なくやるのは、再考した方がいいんじゃないか。

 

花園近鉄ライナーズHPより

 

現代ラグビーのルールの理不尽さとホンダの不甲斐なさに幻滅した私はもうさっさと帰ろうと席を立った。

男子トイレにて、用を済ませてさあ行こうと後ろを振り返ったら、スーツ姿でドレッドヘアの人がすーっと通り過ぎて行った。

 

え!? あ、あれは、(多分)ゲニアだ!!

 

私はドレッドヘアの男性を追いかけた。

「ゲニア選手!」

と後ろから声をかけると、本物のウィル・ゲニアだった!?

 

ツーショットセルフィーを撮らせてもらう。

「Thank you so much!!」と言ったら

「ありがとございまーす」と手を合わせてペコリとお辞儀してくれた。

(なんていい人なんだ!)

 

私は自分のスマホ画面に映し出された自分とゲニアとのツーショット写真を見て痺れていた。

 

Will Genia  Planet rugby HPより

 

ウィル・ゲニアのキャリアはクーパーをはるかに凌ぐ圧倒的のものだ。

出身はパプアニューギニア。少年時代に一家でオーストラリアに移住して、2009年にワラビーズデビュー。

11年、14年、18年W杯と3大会連続で正SHとして出場。黄金のジャージィの背番号9を10年以上に渡って背負い、通算キャップ数は100を超える。

同国のレジェンドSH、ジョージ・グレーガンの正当な後継者だ。

 

nine.com.su HPより

 

ツーショットを撮ってもらうため隣に並んだときに気付いたけれど、私よりも数センチしか背が高くない(プロフィールでは174cmだった)。

こんな小さな身体で、「泣く子も黙るオールブラックスニュージーランド代表)や、「巨人たちの集団」スプリングボクス南アフリカ代表)といった連中を相手に何度も何度も戦い続けてきたのだ。なんて偉大なのだろう!

彼の身体に刻まれた歴戦の記憶とまばゆいキャリアに敬意を表する以外無かった。

 

スタジアムに観戦に行くと、いいことあるんだな

と、しみじみ思ったのだった。

 

 

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Rugby Mie Honda Heat vs Hanazono Kintetsu Liners

Ep.98

I went to see a match of Japan Rugby League ONE, Division2, Mie Honda Heat vs Hanazono Kintetsu Liners.

 

My biggest purpose was to see Quade Cooper and Will Genia in Liners.  Both are legendary Half backs combi for Wallabies, Australia.  They are superstars!

 

So, when I confirmed No Cooper and No Genia name on the board was shown both starting and reserve members, I was so disappointed!

 

But the biggest luck was waiting for me.  After the match, I encountered Will Genia in toilet!  I followed him, out of toilet, addressed and asked to take a photo with me.

He was a gentle guy, very politely man.  I was gratitude for him, “Thank you so much!”  He replied “Arigatogozaimasu!”

 

I can still not believe a 2-shot selfy photo in my smartphone, Genia and me!

It’s a wonderful memory in the stadium.

 

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hanazono-liners.jp