みんなの笑顔が三重(みえ)てくる Jima-t’s diary

「地域性」に光をあて、「違い」を学び、リスペクトし、楽しむというスタンスで四日市や三重の魅力を伝えていきます

三重ダービー 2nd leg, 2022

Ep.118

8月下旬、鈴鹿ポイントゲッターズの三浦泰年監督(ヤス監督)以下、数名の選手たちが四日市市役所を表敬訪問したとのローカルニュースを見た。

そこには三浦知良選手(カズ選手)の姿もあり、四日市市ご当地キャラ「こにゅうどうくん」とハグをしたり、笑顔で写真に収まったりする様子が映し出されていた。

 

中京テレビ HPより

中日新聞 HPより

 

私はこの光景を見て、しばし呆然としていた。

日本サッカー界の伝説的選手は約半年前まで四日市三重県に縁もゆかりもなかった。

それが今、私が暮らす街(四日市)の市役所にやって来て、市民にはお馴染みの舌を出した小僧と同じ構図の中にいるではないか。

人生、何が起こるか分からない。

 

<カズ選手の鈴鹿PG加入>

以前にも書いた(Ep.40参照)が、私はJリーグ開幕の1993年は小学2年生で、当時の熱狂を肌で知る最後の方の世代だ。

カズ選手は当時26歳。ヴェルディ川崎のエースストライカーとして得点を量産し、チームを初代王者に導いた。人気・実力ともに別格で「Jリーガーの象徴」だった。

 

日刊スポーツ HPより

 

かの有名なカズダンス。もちろん私も小学生のとき、友達と学校でサッカーをしていてゴールを決めたらマネした。あの頃、男の子はみんなカズダンスをしたことがあると思う。カズ選手はそういう存在だった。

 

全盛期のカズ選手の節目節目はすべて見てきたし実際に覚えている。

 

シーズン終了後の表彰式のMVPの発表で赤いスーツでド派手に登場したこと。ドーハの悲劇で悲観に暮れる姿(1993年)。デカビタC(栄養ドリンク)のCMでハンドルを握る指にキラリと指輪が光っていたことでさえも。

 

セリエA=世界最強リーグ」だった当時、ジェノアに加入して開幕戦でヘディングを競り合った際に鼻骨骨折という大怪我をしたこと(1994年)。

 

ジョホールバルの歓喜となる試合(イラン戦)では、岡田武史監督がカズ選手&ゴン中山選手の「ツートップの2枚同時替え」で城彰二選手と呂比須ワグナー選手を投入するという戦慄の奇手を放った際、「俺?(が交代するの?)」とジェスチャーしていたことも。その後フランスW杯メンバーから外れて失意の帰国をした際の「魂は置いて来た」とのコメント(1997年)も。

 

全て絵になった。「日本サッカー界の象徴」だった。

 

ジョホールバルの歓喜 デイリースポーツ HPより

 

そのカズ選手が、当時から25年以上経ち、55歳になった今も現役を続け、そして2022年1月。兄のヤスさんが監督を務めるJFL鈴鹿ポイントゲッターズ(鈴鹿PG)に移籍してきた。

それは地元(三重県)と全国を賑わすビッグニュースだった。

 

 

鈴鹿PGに訪れた試練>

さて、鈴鹿PG。三重県から初のJリーグ入りを目指すJFL(日本プロサッカーシステムの4部に相当)のチームである。

私はミラグロス・マルティネス前監督が指揮していた21年シーズン開幕時からこのチームを応援している(Ep.48参照)。ミラ監督の「攻めダルマ」のごとき攻撃的サッカーが好きだったのだが、守備が壊滅的で昨シーズンの夏前から成績が下降して辞任。その後を継いだのがヤス監督(21年7月)だった。しかもGMとの兼任だ。

 

三浦泰年監督(ヤス監督) 鈴鹿PG HPより

 

しかし不祥事が顕在化する。クラブ運営会社の元執行役員が「八百長指示」があったと騒ぎ立て、運営会社社長を恐喝。

これに対してなんと運営会社と社長側は2,500万円を支払ってしまった。

味をしめた元執行役員が更に5,000万円を求めたところで運営会社は警察に通報。事件が明るみに出ることとなった。

 

結局、Jリーグ規律委員会による結論で「社長による八百長指示は認められなかった」となったのだが、不適切な金銭の支払いにより「Jリーグ入りの資格」は停止されてしまった。

加えてこの不祥事によりクラブ運営会社社長以下、4名の役員が辞任してしまったのだ(22年6月)。

 

読売新聞 HPより

 

ミラ監督辞任 → ヤス監督就任 → 八百長疑惑報道 → カズ選手加入報道 → カズ選手加入 → 地元で嵐のようなフィーバー → 八百長疑惑決着・Jリーグによる裁定 → クラブ運営会社役員総退陣

 

わずか一年の間に、こんなにも波瀾万丈な出来事を起こして、かつ全国的な知名度を獲得したクラブチームを私は他に知らない。

一年前までは「スペイン人女性監督が率いる知る人ぞ知るちょっとユニークな地方クラブ」に過ぎなかったのに。

 

今回、鈴鹿PGにとってはこれまで地域で一つずつ築き上げてきたものが、一気に瓦解する恐れのある、まさに超難局が訪れた。

そしてこれに対処するためにクラブが打った一手は、驚きのものだった。

 

産経新聞 HPより

 

クラブ側は自らに向けられた社会からの不信を一掃するため、ヤス監督の知名度と信用性を活かし、クラブ運営会社の代表取締役に選定してしまったのだった!?

 

考えてもみてほしい。

ヤス監督は「サッカーで」クラブの発展に貢献するために、監督とGMの役割で鈴鹿にやって来たはずだ。

それなのに自分が来る前にクラブが起こした不祥事が発覚し、あれよという間に運営会社の代表取締役にもなってしまった。

 

プロスポーツクラブ運営のための「三権(分立)」というものがあるならば、それはきっと、

監督(現場の最高責任者)

GM(長期的視点に立った上でのクラブとしての戦略策定や戦力補強の最高責任者)

運営会社の代表取締役(経営の最高責任者)

だろう。(ただしこの三権の外にあって最も力があるのは「オーナー」)

 

ヤスさんは今、三権すべてでトップにいるのだ。

 

こんな奇妙な話を私は聞いたことがない。

(さすがに運営会社の代表取締役については2人体制とし、もう一人の方、法人経営に実績のある山口隆男氏が主に経営を担当するようだ)

 

 

鈴鹿PGにおけるカズ選手>

3月13日に行われたJFL2022シーズン開幕戦。鈴鹿PGは四日市市の中央緑地公園(Ep.86参照)にある競技場でラインメール青森を相手に2-0で勝利を収めた。カズ選手もスタメンで出場し、観客は4,620人。大いに盛り上がった。

 

それ以降、私は家でYoutubeJFLは全試合リアルタイム中継される)でよく鈴鹿PGの試合を観てきた。

カズ選手のことはもちろん応援しているし、ゴールを奪って欲しいと思っている。

 

けれど正直に言うと(JFLでも)活躍するのは難しいだろうなと思っていた。

そしてそれは想像以上だった。

 

鈴鹿ポイントゲッターズ 公式HPより

 

優れたストライカーを評価する指標の一つに「ゴールバリエーションの豊富さ」というのがあると思う。

ドリブルで単独で切れ込んでいってシュートして決められる。ミドルレンジからシュートを放って決められる。センタリングに頭で合わせて決められる。味方のラストパスに相手DFの死角からタイミングよく飛び出してちょこんと触れて決められる。

あらゆるゴールバリエーション(シュートパターン)があるからディフェンスは後手になる。結果、止められない。

 

例えて言うと、2018-2020シーズンに柏レイソルに所属していたFW マイケル・オルンガ(20年シーズンJ1・MVP&得点王。ケニア代表)のように。

 

マイケル・オルンガ選手 Jリーグ史上最強のストライカーだった? Football Zone HPより

 

カズ選手はというと、未だクリーンにシュートを放つシーンが一度もない。それ以前に、ゴール近くでボールを保持して前を向くことすらできないのだ。

もちろん、中盤まで下がってパス回し(ビルドアップ)に参加させるというチーム事情もあるのは分かるが、それでもFWという相手ゴールに最も近いポジションを、実力が劣る選手が務めると、こんなにも何もできないものか、と驚いたのだ。

 

「点を獲ってチームの勝利に貢献する」のがFWの役割。その気配すら感じられない、厳しい状況が続いている。

そんなカズ選手は5月に負傷して当初想定よりも長期離脱。8月も終わりを迎えようとしていた。

 

 

三重ダービーについて

サッカーで同じ街や地域を拠点にするチーム同士(ライバル)が戦う試合のことを「ダービーマッチ」と言う。

袋井市に住んでいたとき、「静岡ダービー」(清水エスパルスvsジュビロ磐田)を観戦しに行ったことがある。

 

静岡ダービーともなると試合会場がヤマハスタジアム磐田市)ではなく、より収容人数の多いエコパスタジアム袋井市)になった。この一戦には4万人近く集まるためだ。

そして大変な盛り上がりを見せていた。静岡では、ダービーマッチが定着していた。

 

転じて三重県ではどうか?

 

「今週末、三重ダービーだよね〜」

「楽しみ〜」

 

という会話が地元民の間(職場とか)で交わされるかというと、ない。それはあり得ない。

「三重ダービー」というワード自体を誰も発さないし、そもそも試合があることを把握していない。

「三重ダービー」としきりに呼称しているのは地元メディアと、当事者たち(鈴鹿PGとヴィアティン三重の広報)だけなのだった(Ep.77参照)。

 

伊勢新聞 HPより

 

冒頭の市役所の表敬訪問の話に戻る。

「三重ダービー」について地元メディアから問われたカズ選手が答えていた。

 

負けられない、それがダービーの面白いところ

ダービーに間に合うように調整し、勝利に近づけるようなプレーをしたい

 

これを聞いたとき、カズ選手は完璧な模範コメントをするなと思った。

 

歴史も伝統もない三重県内の2チームによる「ダービーマッチ」について、一年前は両チームのことなんてほぼ知らなかったであろうカズ選手が、こんなにも殊勝なコメントをしてくれた。

 

三重県民は、これから彼ら自身で「三重ダービー」を盛り上げていかなければならないな、そしてカズ選手に最大級の感謝をしなければいけないな、思った。

 

鈴鹿ポイントゲッターズ 公式HPより

 

三重ダービー云々よりも、この表敬訪問時に注目されたことがある。それはカズ選手の先のコメント、及びヤス監督のコメントから

「どうやらカズ選手が故障から復帰してこの試合に出場しそうだ」

ということだった。

 

これに色めきだったNHK津放送局は、急遽総合テレビで生中継することに決めた。

6月5日に行われた今シーズン最初の三重ダービー(V三重がホームで4-1で勝利)ではそんなことなかったのに。

やはりカズ選手が出場しそう、というのがすべてだ。

 

 

<三重ダービー 2nd leg, 2022>

迎えた9月4日、四日市市中央陸上競技場に4,054人を集めて今シーズン最後の三重ダービーが行われた。

 

鈴鹿ポイントゲッターズ 公式HPより

ヴィアティン三重 公式HPより

 

カズ選手はスタメンではないもののベンチ入り。後半からの出場が期待される。

 

前半を0-0で折り返して後半。51分に鈴鹿PGはコーナーキックから、DF 今井那生選手(3番)が押し込んで先制する。

続く60分、鈴鹿PGは左サイドを突破したDF 上田駿斗選手(6番)が中央にグラウンダーのラストパスを送ると、これにMF 三宅海斗選手(19番)が完璧なタイミングのワンタッチシュートであわせて追加点を挙げた。

 

三宅選手は現在JFLの得点ランキング第1位(11得点目)。今シーズン開幕前にJ3鹿児島ユナイテッドFCから移籍してきた選手だ。

前半からずっと見ていて、三宅選手は別格だった。ゴールへ向かうドリブルスピード、瞬時に前を向いて素早く振り抜くミドルシュート、動きのキレ。得点シーンも、確実に仕留めた。

こういう選手が得点を重ねていくんだなと思った。このカテゴリーにおいて「違い」を見せつけてくれる、明確に優れた選手だ。

 

三宅海斗選手 鈴鹿ポイントゲッターズ 公式twitterより

 

そして80分、殊勲のエース・三宅選手に替わってカズ選手が投入された。盛り上がるスタンドと実況。3ヶ月ぶりに、カズ選手が戻って来たのだ!

 

日刊スポーツ HPより

 

2点リードで試合時間残り10分という、故障明けのベテラン選手には最適な状況下だったかもしれない。もちろんヤス監督としては、カズ選手にチームの3点目を獲らせて相手の息の根を止めるために送り出しただろうが、鈴鹿PGの選手たちも既に引いて守っており、ボールを奪っても前線のカズ選手に素早く送ってカウンター攻撃、というほどの意図は感じず。

カズ選手も相変わらずマイボールにはほぼ絡まなかったけれど、相手のパス回しにプレスをかけていた。

 

そしてこのままタイムアップ。鈴鹿PGが見事、2-0でV三重を下した。

これで2022シーズンのJFLにおける三重ダービーも、通算1勝1敗となった。(これとは別に天皇杯三重県大会決勝で鈴鹿PGはPK勝利)

 

鈴鹿ポイントゲッターズ 公式twitterより

 

というわけで、今年も「三重ダービー」を十分に楽しめた。

カズ選手のことはこれからも応援しているし、点を獲って欲しいと強く思う。

 

そう遠くない日に、カズ選手がゴールを決め、それによる爆発的な歓喜とみんなの笑顔が、三重県から全国に広がりますように。願っている。

 

 

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“Mie derby” 2nd leg, 2022

Ep.118

On Sep 4, the match of Japan Football League, Suzuka Point Getters vs Veertien Mie was held in the Yokkaichi stadium.

It was first “Mie derby” for Miura Kazuyoshi who was a living legend striker and the icon of Japanese football union.

 

As a result, Suzuka PG got 2-0win.  Kazu played only very short time because of recovery from his injury, but it made us happy.

 

https://suzuka-un.co.jp

www.veertien.jp