みんなの笑顔が三重(みえ)てくる Jima-t’s diary

「地域性」に光をあて、「違い」を学び、リスペクトし、楽しむというスタンスで四日市や三重の魅力を伝えていきます

丹羽文雄

Ep.113

毎年1月下旬と7月下旬に発表される芥川賞直木賞

私は2006年あたりから現在までの全ての芥川賞作品を読んできている。

芥川賞は一度に2人受賞されることがよくあるから、40作品近く読んできたと思う。(ただし面白くなかったり難解だったりで序盤で挫折した作品もけっこうある...)

 

これだけの数の作品を読んでくると、おぼろげにパターンや共通点があることに気付く。

話の展開や、あるいは読み終えた後に、

ああ、芥川賞受賞作っぽいな

と思うのだ。

 

私見ではそのうちの一つが「破滅的なラスト」が訪れることだ。

これはバッドエンディングや悲劇を必ずしも意味するわけではない。主人公やその周辺人物の暗転が描かれる。

芥川賞受賞作とは、一歩ずつ一歩ずつ、ページをめくる毎に、破滅に向かって進む物語のことだ。

 

あー、やっぱりそうなっちゃうよね

という風に、ある程度予測できる破滅(予定調和的破滅)の作品が主の一方で、

えっ!? そっちの方向?

という破滅(意外性的破滅)もある。

後者の代表が『花火』(2015年上半期、又吉直樹氏)だ。

 

芥川龍之介 新潮社HPより

 

先ほど「芥川賞作の共通点」と言ってしまったが、考えてみるとそもそも「純文学の共通点」と言えるかもしれない。

『それから』(夏目漱石)も『雪国』(川端康成)も『人間失格』(太宰治)も『金閣寺』(三島由紀夫)も、全て破滅的なラストが訪れるではないか。

 

夏目漱石 新潮社HPより

 

文藝春秋の3月号と9月号はそのときの芥川賞作が全文掲載されるが、芥川賞選考委員たちの選評もまた、掲載される。選評とはすなわち読書感想文だ。

22年8月現在は山田詠美小川洋子川上弘美吉田修一といった現役作家たちが選考委員に名を連ねている。彼らが各々の作品をどう解釈してどう考察しているのか。それを読めるのもまた面白い。

 

基本的に、彼らの選評は優しい。厳しい評価が下される作品や著者もいるが、それも新人作家たちの今後の飛躍を期待してのこと。

 

けれどそうじゃない選考委員が、昔いた。故・石原慎太郎氏だ(1995年下半期〜2011年下半期)。

政治家として数々の奔放な発言をしてきた石原氏だが、芥川賞選考の場でも言いたい放題だった。

 

石原慎太郎 新潮社HPより

 

「今回の候補作の大方は読者の代表の一人たる私にとっては何とも退屈、あるいは不可解なものでしかなかった」(2007年上半期)

「どれも所詮は作者一人の空疎な思いこみ、中には卑しいとしかいえない当てこみばかりで、うんざりさせられる」(2008年下半期)

 

受賞作であろうとなかろうと、基本的にけちょんけちょんに酷評していた。石原氏が高評価を与えた作品の記憶がない。なので私は、

この人は一体なんのために芥川賞選考委員をしているんだ?

と思っていた。

 

ただしその一方で、私はこの人の選評を読むのが好きだった。毎回、

今回はどのようにボロクソ言うのだろう

と楽しみにしていたのだった。

 

石原氏は2011年下半期を最後に選考委員を退任した。

長年選考委員をつとめたのにいつまで経っても才能ある新人は出てこないし作品もレベルが低くてくだらないものばかり。自分にとってためにならないし時間の無駄。だから辞める。

という理屈だった。

 

その回も散々酷評した挙句、

「さらば芥川賞!」

と言い残して去って行ったのは、とても印象的だった。

 

2022年上半期(7月)の芥川賞受賞作『おいしいごはんが食べられますように』(高瀬隼子氏) 日本文学振興会HPより

 

ところで私が以前勤めていた東京の会社では、同僚に芥川賞作家がいた。

 

 

は?? どーいうことなの?!

 

となると思う。私も最初に誰かから聞かされたとき、そう思った。

 

姪が有名女優だったり、父親が著名な声優だったり、息子が甲子園優勝投手だったり、娘のクラスメイトが人気歌手だったり、というならまだ分かる(事実、そういう方たちがいた)。

けれど本人が芥川賞作家とはどういうことだ? と。嘘に決まってるじゃないか? と。

 

吉目木晴彦氏 安田女子大学HPより

 

けれどそれは事実だった。

1993年上半期の第109回芥川賞を『寂寥郊野』で受賞された吉目木晴彦さんだ。

私とは異なる事業部と勤務場所だったが、確かに在籍されていた。すでに執筆活動はされていないようだった。

 

私は『寂寥郊野』を始め吉目木さんの作品もいくつか読んだ。

人間の精神に通底する不信や欺瞞。それが見え隠れすること。気持ち悪いくらいのリアル感で、読んでいるとじっとりした脂汗が出てくるような作品だった。

読んでいて楽しい作品ではない(エンタメ性はない)。徹底的にリアリズムだ。

もちろん、破滅的なラスト(予定調和的破滅)が描かれる。

 

丹羽文雄 Wikipediaより

 

さて、だいぶ前置きが長くなったが、四日市にも芥川賞とゆかりのある人物がいる。

市内出身の作家、丹羽文雄である。

ただし本人は受賞していない。選考委員を1949年上半期から1984年下半期、36年もの長きに渡りつとめた。

 

四日市市立博物館(Ep.2159参照)には「丹羽文雄記念室」が常設されている。

 

 

多作な作家で、執筆原稿は5万枚を超えるとのこと。後年は浄土真宗の寺に生まれた自身の生い立ちに向かい『親鸞』(1969年)や『蓮如』(1982年)といった作品を残した。

 

芥川賞の選考委員ではどのような選評をされていたのだろうか。

きっと温かい選評をされていたに違いない。

 

野間文芸賞谷崎潤一郎賞の選考委員もつとめ、健全な批評の重要性を説き、多くの後進を育成した。日本文藝家協会の理事長もつとめ、文学者の社会的な地位向上に尽くしたとのことだ。

 

四日市が誇る郷土の偉人として顕彰されている。

 

 

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Niwa Fumio

Ep.113

Niwa Fumio (1904-2005) was a novelist from Yokkaichi.  Also member of an Akutagawa-Ryunosuke prize selection committee for 36 years, it’s the most valuable prize for young novelists of Jun-Bungaku field.

His carrier and achievement are honored in the Yokkaichi city museum.

 

www.city.yokkaichi.mie.jp

150.60.86.206

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